いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


「営業所とな、やり取りが多くなるっつーか」

ああ、と真衣香は納得する。優しい八木が心配してくれそうなことだった。

「えっと、咲山さん……ですか?」
「そうだな」
「大丈夫ですよ。この1週間ほとんど顔も合わせてなくて凄く落ち着いたんです、気持ちが」

それは、嘘ではない。
平和な1週間だったと思い返したとおり、坪井とはたまにすれ違ってしまうことこそあれ、関わりはなかった。

けれど、心に少しも彼がいないのかと言われれば、それはもちろん嘘だ。
多少のつよがりは、必要だと思う。

あえて誰とは声にしなかったが、八木はホッとしたように「そうか」と笑った。

「咲山にこの間会った時、釘指しといたし。 そんな絡んでこないとは思うけどな、仕事だし」
「……すみません」

謝った真衣香を見て八木は急に立ち上がり、真衣香の目の前で止まる。 見下ろしながら、ぺちん、と軽く頭を叩かれた。 もちろん痛くはないのだけれど。

(八木さんにはお世話になり過ぎてる)

つよがりたい理由の大部分は、これだ。

仮にも好きだと気持ちを告げられてしまった。 その気持ちに応えるつもりはないのだからこれ以上頼っちゃいけない、と真衣香は強く思っている。
その気持ち自体が、本物ではなく、優しい八木の同情心からくるものだとは……もちろんわかっているのだけれど。

「はー、しょうもねぇな。お前が何考えてるか当ててやろうか」
「え?」

顔を上げると、眉間にしわを寄せまくり不機嫌マックスな顔が視界に入った。
そして、不機嫌そうに低い声のまま言う。

「気持ちに応えられないのに、これ以上頼るわけにいかない。 とか何とかアホなこと考えてんだろが」
「あ、アホって!」

いざ冷静に口に出されてみると、ものすごく恥ずかしく、そして何様だと思う考えだった。誤魔化すように八木の言葉に言い返すと。またもや頭を叩かれる、というか押さえつけられたと表現する方が正しいのか。

そして、声に少し優しさが戻って、ゆっくりと真衣香に言い聞かせるように話した。
< 245 / 493 >

この作品をシェア

pagetop