いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


甘い蜜が目の前にある。口にすれば、その味で頭がいっぱいになるはずだ。
坪井は、そんな都合のいい甘さを知っている。

(隼人の言うとおり、なんじゃないの)

真衣香は既に他の男のもので、独りよがりな義理立ては求められてもいない。

(セックスはストレス解消ねえ)

魅惑的な肉体を見下ろす。そこにはもちろん何の気持ちもないけれど……この女を抱いて、嫌なことを飛ばしてしまえばいいじゃないか。
――心の中に潜む弱さが、大きく主張を始める。

それこそ、まさに憂さ晴らしになるんだぞ。
お前のセックスの意味合いなんて、もともとそんなものだったじゃないか……と。

(ちょうど、そこそこ勃ってるし、いーんじゃん。俺がこの女を抱いたところで立花は悲しんだりしない)

女に手を伸ばし、湾曲が美しい腰に手を添えて……『場所変えよっか』と、囁けばいい。
それだけだ、いつものこと……なのに。


『大好き、坪井くん』


頭をよぎる、いつかの、笑顔。
穏やかな声。
触れた唇の暖かさ。
肌に指を這わせた時、込み上げてきたもの。

愛おしさが、身体中に、こびりついて離れない。

坪井は、身震いするほどに大きく息を吸い続け、そして大袈裟に吐き出した。クールダウンのためだ。

そうして、密着する身体をゆっくりと引き離す。

"強くなりたい"

抱きたい女なんてこの世にたったひとりだけだ。
立花真衣香、ただひとりだけなんだ。

額に手を置き、眩く光る天井を見た。

(……すげぇ。一生理解できないと思ってたのに。浮気できない男の心理、わかったかも。できないわ、無理だろ。失いたくない)

存在を。信頼を。隣に立つ権利を、隣に立ちたいと思える自分を。

それは、求められて仕方なく律するのでは意味がない。
要は心の持ちようで、相手の目に自分がどう映っていたいか。その姿を保つこと、保とうと努力できること。

求める強さは、きっとそれだ。
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