いない歴=年齢。冴えない私にイケメン彼氏ができました


「わ、私は……助けてもらってばっかりで、八木さんに何も返せないのに」

情けなくて、弱々しい声が出たけれど八木は特に気にする様子もなく言った。

「じゃあ今返せ。どーせ借りがあるとかアホなこと思ってるんだろが。利害が一致するな」

……いや、気にしていないんじゃない。この言葉は、彼なりの優しさだ。今も、これまでも、真衣香は甘え続けている。
決して"忘れていた"のではない。忘れたような態度を許してくれる八木に甘え続けているのだ。

「い、いえ、私、こんなことで返せるなんて思ってないです……」

緊張と自分への嫌悪感で頭の中をまとめられないでいる。

そんな真衣香に業を煮やしたのか。八木は電源が入ったままの真衣香のノートパソコンに触れた。

そして暗記しているのか、真衣香の社員番号をシステムにささっと打ち込んで退勤入力を完了させてしまう。

「めんどくせぇ奴だな、お前はマジで。付き合ってたら朝まで帰れねぇんじゃないか」
「え……、そんな真顔でひどいです」
「酷いもんかよ、ったく。言い方変えるわ。お前俺に借りがあるだろ。拒否権ないんだからついてこい。わかったか?」

言いながらニヤッと笑った。真衣香からの返事を、もうわかっているかのよう。

――やはり八木は、真衣香の扱いが上手いのかもしれない。答えを委ねられると即答できなくとも、言い切られると途端に素直に返事ができる。
それでいいのか?と、そんな疑問はひとまず置いておくとして。

「わ、わかりました! 急いで着替えてきます!」

まるで心が軽くなったかのように大きな声を出せた。
その勢いで、立ち上がり、走ってフロアを出ようとする真衣香の腕を、八木が引き止めるように掴む。

「急がなくていいっつーの。どうせ今の時間どこ行っても混んでるだろ、のんびり着替えて来い」
「……わ、わかりました」

こくり、とうなずいた真衣香に「よし」と満足げに声をかけて、頭を軽く撫でた。
その表情は、切れ長の鋭い瞳を柔らかく細めて、唇の端を僅かに上げて。
例えるなら嬉しそうに笑ってくれているように見えたのだけれど。
何故だろう。
どことなく影が見えたような気がして、心の隅に引っ掛かるようにして残ったのだった。
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