愛を、乞う

 
4階まで階段で駆け上がり、自分の家に入ると一気に疲れが出た。
何の音も無い自宅、明かりを点けることも忘れてお母さんの部屋のドアを開けてみる。
慣れ親しんだ香りは胸の奥に冷たいものを残し、そっと足を踏み入れて面影を探す。

でももう何も無い。
まるで死んだようだ。
死んだよりも酷い、手紙の一枚も私に残してくれなかった。
2人が今何処にいるのか、生きているのかそれとも2人で死んだのか、それすら私には分からないのだ。

お母さんのベッドに腰を下ろし、クラスの連絡アプリで明日から行くよと文字を打つ。
奈々と麻里奈の3人だけのトークルームで暫く話した後、ガラケーを使っていたお母さんにメールを送ってみる。

今、どこ?

たったそれだけの文章、そして何度やってもエラーメールとなって返ってくる。
今、どこ?なんて1週間も帰ってこない人に送る内容じゃないと自分でも思う。
でもどうしても深刻になれない。
まるで自分のことじゃなくて、何の痛みも感じなくて、でも時々耐えられない孤独に胸が張り裂けそうになる。
< 7 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop