【完】喫茶「ベゴニア」の奇跡
「高校からの腐れ縁なんですよ。女の子みたいな名前だけど正真正銘の男」
「君は橋本奈央ちゃん。でしょ?」

「よろしくね」と差し出された手を握り返すと、以外にも優しみのある手だった。

話を聞いていると、高校3年間同じクラスで、学部は違うが大学も同じだったらしい。大学名を聞けば、このあたりでは有名なマンモス校だった。人文学部や経済学部から、医学部や薬学部まで幅広くあり、私の同級生も何人かはその大学に行っていた記憶がある。

学生の頃の桐山さん、か。

なぜ私の名前を知られているのか。それは置いておいて、10代の桐山さんには少し興味がある。そんなストーカーじみた考えは頭から追い払い、心のうちに留めておくことにした。だって私はまだずっと桐山さんを観察してみたい。

「由希、彼女が困ってるよ」
「え〜?困ってないよね?だって俺たち友達だもん。ね、奈央ちゃん」
「すみません橋本さん、適当にあしらって大丈夫ですから」

「はあ」と何ともおぼつかない返事をする。随分早乙女さんは人懐っこくてコミュニケーションが上手な男である。つい自分自身と比べてしまうくらいに。今までの私の学生生活といえば、派手でもなけれな地味でもなく、波風立てないようにおとなしく過ごしていたい派だった。そのためか、こういうタイプに関してはどう会話を返していけばいいか経験値が足りないのだ。どうも会話がたどたどしくなる。

「さ、早乙女さんは、」
「由希でいいよ由希で。ほら、友達だから」
「はあ・・そうですか」

「もちろん敬語もいらないよ」とバチりとウインクしてくる早乙女さ・・・由希くんの取扱説明書が全力で欲しい。最近桐山さんを目で追っていたからか、とてもキラキラした金髪に目がチカチカする。流石にため口はと思ったが、何と私たちは同じ年らしい。もちろん桐山さんを含めたこの3人が。そういうことならばと、ありがたく敬語を外させてもらうことにした。

「・・・由希くんは本当に桐山さんのお友達なの?」

外見や雰囲気から、2人は全然違うタイプ。優等生とチャラ男。もちろん高校生の時は由希くんも金髪ではなかっただろうが、仲良くなった経緯だとか興味がある。疑うようなトーンで聞くと、由希くんは少し呆れたような怒ったような声で言い返してきた。

「疑ってるの?本当だから!それに水樹が同じ大学に入れたのは俺のおかげだからね」
「・・・え、逆じゃなくて?」
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