贖罪のイデア
チャーチル・ロンドン・スクールは、イギリスロンドン郊外に位置するインデペンデントスクール(私立高校)だ。

小さな丘の頂にある教会と麓のコの字型の本校舎、校庭とその中央の中庭で形成されている。

校舎は三階建ての赤レンガ作りで、中庭にはパンジー、ビオラ、ストック、カンパニュラ、チューリップ、ガーベラ、アリウム、クリスマスローズなどの色とりどりの草花が咲き乱れる。広大なイングリッシュガーデン――この学校の名物だ。

校舎の所々を覆う緑色のツタは年季を匂わせているが、決してそれは不快なものではない。

寧ろ、連綿と紡がれた学校の歴史を雄弁に物語っている。

「……昔と全然変わらないな」



変わってしまったイデアの姿を見ただけに、それはマイケルにとって嬉しいことだった。

「時もずっと止まったままならいいんだけど」



とある事件でこの地を去ってから十年が経つ。

あの事件の後、マイケルは家の事情で転校を余儀なくされ、その後遠方の親戚に引き取られた。

彼は邪魔者として虐げられる日々を送り続ける中、この学校に戻ってくることを夢見なかった日は一度としてなかった。

もう一度、この心安らぐ思い出の地へと帰りたい。

そしてもう一度、あの記憶の中の少女に会いたい。

その一心で晴れて高等部の奨学金制度資格試験に合格し、この学校に戻ってきてから三日が経った。

初日に教会で会って以来、例の少女とは一度も話せていない。

明らかに彼女……イデアはマイケルのことを避けている。

マイケルのことを嫌っているというよりは、何かを恐れているようだった。

そしてそれを分かっているからこそ、マイケルは彼女を深追いできなかった。



「君はもう……僕が知っている君じゃないのかな」
< 2 / 39 >

この作品をシェア

pagetop