愛プチ
「あのさ・・ちょっと散歩していかない・・?」

お店を出たところで思わぬ進藤さんの提案に心が一気に浮足立つ。
進藤さんの目がどこか少し熱っぽい気がする。

「したいです!散歩!」
緊張で少し酔っているが、夜風にあたっていればそのうち酔いも覚めるだろう。
それに進藤さんの誘いを断る理由等どこにもない。

まだ人の多い駅前を二人でゆったりと歩く。
並んだ手が触れそうで触れない、近くてもどかしい距離感。
ふいに触れた進藤さん側の手が熱い。

触れた事にお互い気付かないふりをしながら何食わぬ顔で会話をつづけていた。

さすがにあまり遅くなると迷惑かもしれないし、結構歩いたしそろそろ帰る提案した方がいいかな・・。

「そろそろ帰りましょうか。」
進藤さんにそう提案すると、今まで絶妙な距離を保っていた彼の手が私の手をぎゅっと握ってきた。
思わぬ展開に心臓が一気にバクバクと音を立てて騒ぎだす。

ぎゅっと握られた手に、進藤さんの真剣な表情。

なに、なにこの展開・・まさか・・。
この展開はまさか・・・。

「今日は絶対言おうと思ってたんだけど・・。
俺と付き合ってほしい。」

進藤さんのまさかの告白にゴクリと唾をのみこんだ。
ついに来た・・・ついに来たんだ・・私の時代・・!

嬉しくて舞い上がりそうな気持を必死にこらえる。

「・・よろこんで。」
放心状態の私はそう答えるのが精いっぱいだった。

良かった、良かった、と心底嬉しそうな顔で喜ぶ彼をみて思わず私も笑みがこぼれる。

ああ、神様ありがとうございます。
先週の悪夢から一変してこの幸せ・・・。
頑張って生きてきてよかった本当に・・。

心の中はもうサンバサンバのカーニバル状態なわけだが、進藤さんの前でいきなりサンバを踊るわけにはいかないのでただただはにかみ続けた。

「せっかく恋人になったんだし、今夜はもうちょっと、一緒に居たいな・・。
だめ、かな・・?」

進藤さんの後ろの後ろのそのまた後ろにそびえたつラブホテル。

これは、今夜はもうちょっと一緒にいたいってそういうことですよね?
私と今夜共にあんな事やこんな事をするという事ですよね?!

「亜由美ちゃんの可愛い素顔がみたいな・・。」
あと一押しという感じで進藤さんが私の手をさらにぎゅっと握る。

”可愛い素顔”
その言葉で一瞬にして我に返る。

そうだ、私にはぬぐいきれないトラウマがまだ残っている。
アイプチの事だって進藤さんにはまだ話せていない。

無事アイプチをしたままベッドインしてもし突然トラウマがフラッシュバックして震えがとまらなくなったらどうしよう。
それにすっぴんなんか何かの手違いでみられたもんなら、この今日の告白は白紙に戻るかもしれない。

喉が猛スピードで乾いていく。

どうしよう。
なんて断ろう・・。

「・・えっと。
今日は、歩いてる間になんか酔いが回っちゃったみたいで・・、すみません。
また次のデート楽しみにしてます。」

苦し紛れにそう答えるのが精いっぱいだった。

気まずい私とは裏腹に進藤さんは優しく、急だったねごめんねと言って頭をぽんぽんしてくれた。

本当に嫌になっちゃうな。
コンプレックスごときでこんなにうじうじ。
自分でもわかっている。
周りからみれば大した悩みじゃないことも、自分が過去をひきずりすぎだというのも。
全部わかっている。

でも、好きな人に自分のすっぴんをみられると思うと血の気が引く思いがした。
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