愛プチ
電車に乗って最寄り駅まで帰る。

本当は相手の車でラブホまで行ったのだが、逃げてきてしまったため送ってくれる人はいない。

相手の子には本当に悪いことしちゃったな。

電車の中からラブホの方角に向かって手を合わせる。

巻き込んだ上に逃げてしまって本当にすみませんでした。

心の中でまだラブホにいるであろうあのイケメンの彼に謝罪をした。

でももう二度と会うこともないだろうし。
元々知り合いだったわけではないので大丈夫だろう。

さて、落ち着いてきたところでそろそろ事の経緯を説明しようと思う。

まず私にはちょっとした、というか私にとっては結構ショッキングなトラウマがある。

そのせいで人前ですっぴんになれなくなってしまった。

もう少しだけ詳しく言うとアイプチが手放せなくなってしまった。

トラウマ以降ずっと恋愛をご無沙汰していた私だが、次々と結婚していく友人たちをみて焦りを覚えたのが約半年前。

そこから婚活をして最近やっと気になる人ができた。

それがきっかけでトラウマを克服しようととある出会い系アプリを始めてしまったのが事の始まり。

別に処女を捧げるわけでもないし、ワンナイトラブなんてこの歳になると周りではちょくちょく聞く話だ。

それなりの覚悟を決めて今日という日に挑んだつもりだったのだけど。
私は自分のトラウマというものをかなり侮っていたらしい。

見せる機会がないだけで見せようと思えば、追い込まれれば、アイプチなしでも素顔を見せれるものだと思っていた。

でもそれはとんだ思い上がりだった。

まさかあそこまで重症だったとは。

大体よくよく冷静に考えてみると、近所のスーパーにいくのでさえアイプチなしではいられないのに、ヘタレの私にあんな大胆なことが出来る訳がなかったんだ。

本当に情けないというかなんというか、、。

考えれば考えるほど気分が落ちてゆく。

電車の窓に反射する自分の顔はひどく疲れていて、そんな自分を可哀想だと他人事のように思った。
電車から降りてからの事はあまりよく覚えていない。

私には、辛い事や落ち込む事があると考えない様にする癖がある。

だから前にも進めないのだけど。

これ以上落ちることもない。


でもこの日の私は気付いていなかった。


今日という日が地獄の始まりということに。
< 2 / 45 >

この作品をシェア

pagetop