愛プチ
「一緒に住んでるけど、こうやってゆっくり話す事ないからなんか新鮮だね。」

「ほんとに、昔住んでたところとはいえ、いきなり転がり込んで申し訳ないやら申し訳ないやらで、、申し訳ないです・・。」
何語を喋ってるんだ私は。

二人で話す事というのが初めて家に来て以来なかったので少し緊張してしまう。

「あはは、何語なのそれ。
大丈夫だよ、男の二人暮らしなんてむさ苦しいだけだし。
まあ、美月と何があったのかは気になるけど、あいつも難しい性格してるからなんか言われても流しとけばいいよ。
意地悪されたら俺に言ってくれればなんとかするし。」

美月君との出会いは口が裂けても言えないので笑ってごまかした。
お兄さんだしそれなりに色々推測して割と勘づいてそうでもあるけど・・。

「なんていうか、美月君は難しいっていうよりも、つかめない感じですよね。
我を貫くというか、尖ってるというか・・。」

まあ、いい意味でも悪い意味でもね。

どことなく何を考えているか分からないしつかめない感じがする。

深くかかわるつもりはないのでそれでも別にいいんだけども。

「確かにたまに意地悪な事も言われますけど、家事だって毎日しっかりこなしてるし偉いと思います。」

そこだけは、ね。
そこだけ。

家事意外は口も悪いし、すぐ睨んでくるし、ずっとゲームしてるし、何より私を嫌っているのがひしひし伝わってくるので苦手は苦手だ。

今朝の洗面所での出来事を思い出すとまだイラっとしちゃうし。

なんやかんやと話しをしているうちに、デート直後のもやもやもだいぶ緩和され、気が付けばもうすぐ家に着くころになっていた。

「ちょっとまって!
こっち向いて亜由美ちゃん!」
家の門をくぐろうとすると、隼人さんに何故か呼び止められる。

「なんです・・か・・。」

何だろうと思って振り向いた瞬間。

目の前に隼人さんの顔。

そして唇には温かい感触。

これは。
世にいうキス・・・?

驚いたまま目を見開いて固まる事しかできない。

さっきまで普通に世間話をしていたし、私が今日告白されて彼氏ができた話もしたし、別に隼人さんは酔っぱらっていそうな感じでもなかった。

何故この展開に?!
気が狂った?
ていうか夢?
夢なのかこれは?

数秒後、やっと離れた隼人さんがふーっと息をつく。

「いや急にごめんね、でも助かったよ。」


「・・助かったって何が、ですか・・。」

「最近一人の女の子にしつこくつきまとわれたりしてたからさー・・困ってたんだよね。1回寝ただけなのに彼女いるって言っても信じないし・・・。

今日もあとつけられてたんだけど、今日は亜由美ちゃんがたまたま居てて助かったよ。
多分これだけ見せつければさすがにもうつきまとってこないだろうし。
ほんと。ありがとう。」

隼人さんの言っていることを瞬時に頭で理解できないのは、酔ってるからなのか私がばかだからなのか・・。

さっきまでなんていい人だろうと思っていた自分を背負い投げしてやりたい。

なんというか、感覚が違いすぎてついていけない。

あれか?
私はストーカーを撒くのに利用されたって解釈でいいんだよね?

彼の悪気のない笑顔が逆に怖い。

そういえばなんかこういう感じの状況前にもどこかであったぞ・・・。

そうだ、美月君に水ぶっかけられた時だ・・。

それとはまた種類の違う無神経さを感じるが、まさか兄弟そろって女たらしとは・・。
しかも同じように利用されるハメになるとは・・・。

私は本当にとんでもない家に戻ってきてしまったかもしれない。
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