23時41分6秒



レストランのいつもの奥の部屋で
席に着くと、メニューも開かずに
彼はトマト薫ハンバーグをふたつ頼んだ。

店員が部屋から出るのを見届けると
彼は私を見て笑顔で言う。


「茉莉花さん。お誕生日おめでとう」


そして足元から赤い薔薇の花束を
差し出した。


「ありがとうございます」


両手で受け取り、花束を胸に抱くと
甘い香りがした。

男性から花束を貰ったのは初めて
だった私は、嬉しくて思わず
笑みが溢れる。


「喜んでもらえてよかったです。
 貴女の笑顔、初めて見ました」

「…そうでしょうか?」

「最初は緊張なのか警戒なのか、
 距離を感じていました。
 会う度に少しずつですけど、
 表情が柔らかくなっていくのが
 僕は本当に嬉しかった。
 今、笑顔を見ることができて
 幸せです。
 これからもずっと笑顔でいてください」


そう言って彼は少し照れた様子で
俯いた。


< 129 / 221 >

この作品をシェア

pagetop