その人は俺の・・・

寝室の前で長く息を吐いた。

「あなた?おやすみになられてますか?」

返事はなかった。
そうっと中に入り近づいた。ほぅ、眠っているようだ。…良かった。これなら今夜はこのまま…。
ベッドの横のテーブルに置いた。ペットボトルではない…硝子の水差し。カタカタと音がしないように気をつけた。

「…愛生」

あ。不意に手を掴まれた。眠っていなかったようだ。

「どうした…そんなにびくついて、…驚いたのか?」

「はい、ごめんなさい。返事がなかったものですから。もう眠ってらっしゃるものだとばっかり…」

「…おいで」

…あ。

「先にお水をお持ちしたので、まだ、片付けが…」

「いいよ、明日で。愛生がいないと…眠れそうもないんだ。さあ…」

捲られた布団の中に倒れ込むように引かれた。

「ぁ…お疲れなのでは?だから眠れなく…あ」

喋るなとばかりに唇は塞がれた。舌が…唇を割るようにして侵入してきた。

「……愛生…はぁ…愛してるよ…。この前は手をあげてすまなかった。つい我を忘れて……心配なんだよ…解って欲しい…愛生…」

好きも何も…愛のない結婚になるだろうとは解っていた。でも有り難いことに私は夫に愛されている。心も体も。それはとても過剰なくらいに。その愛され方はただただ独占欲…、嫉妬心がとても強く、特別に異質なものだいうことも解った。だから数時間習い事をしたいと言ったことに異常に反応したのだ。

「…愛生。出張なんて行きたくもないんだ。本当だ。一晩だって家を空けるのは不安なんだ。…こうして愛生と居られないなんて…あぁ、……愛生。この体も、愛しくて堪らない…」

「…あなた」

これは、結婚してくれた夫への私の…義務…。
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