その人は俺の・・・
「私の部屋なんです」

ぉぉ……だから、俺の部屋なんだって!……下の階の人間が勘違いしてるのか?流石に…下に誰が住んでるかまでは名前も顔すら知らないし。でもな、なんにせよ、自分の部屋だって言うなら入ってるだろ?鍵が無くて入れないにしても、ここに居るのはおかしい。大家に連絡なりするだろ。冷静に部屋番号、見れば解る、そうだろ?俺はチラッと数字を確認した。
ほら、やっぱりな、俺の部屋で間違いないって。

「いや、ここは俺の…」

やっとゆっくり顔を上げた。
…あ。頬……。右の頬が赤い?ぞ。…どうしたんだ、まずいんじゃないか、これ。叩かれでもしたのか…。そうだよな。えー……。面倒なことに巻き込まれたくないんだけど。
大丈夫かどうか聞くまでもなく、完全に大丈夫じゃなさそうな状況のようだけど。

「あの、その頬……あ」

お。スゲー見られてる。聞くなって?…そこは放っといてって圧かよ…。自分勝手な主張過ぎやしないか?よく解らないけど訳あり過ぎるだろ………はぁ、解ったよ、ここに居たいなら居てもいいさ。そのかわり、ちょっとは退いてくれないでしょうか、ドアが開けられないんですよ。

「鍵、開けます。中に入りたいんです、ドア…開けさせてください」

最早泣き落としだ。……うぉぉ。ここまで下手にでて言っても動いてくれそうもないなんて。……まさか、体も…痛いのか?だから動けないのか?
あ゙ー、もう実力行使だ。
少し距離をとったまま鍵を差し込んだ。ガチャッ。ほら、聞こえたでしょ?ガチャッって。これ、開いたって音ですよ?解るでしょ?

…全く…動く様子はないな。どうするつもりなんだ…。一体、なに考えてるんだ…。
「………あの……鍵も開けたし、俺、もういい加減入りたいんですけどね」

正直、強引にでも退かしてしまいたい。俺も疲れてるし部屋を前にして入れないなんて勘弁して欲しい。
頬、痛そうなのは解る。だけど何も言ってくれないし、もっと殊勝な態度をとってくれるなら、そう、スッと立ち上がってくれるとかさ、そしたら……頬、冷やしますか?タオル濡らして貸しましょうか?とか言ってたかも知れないのに…。

「私も」

はい?

「私も入らせて?」

は?な、に…なに、…何言ってるの?。はぁ。………イラッとするな…落ち着け。ここまで辛抱したんだ、デカイ声は出すなよ………何故だ?……ここに入りたい?

「いや、無理ですよ…。見ず知らずの人なんて。ここ、間違いなく俺の部屋なんですよ。鍵、ちゃんとこれで開けましたよね?この鍵、俺が持ってたでしょ?」

どこの誰とも知れない人物をやすやすとなんて…。入れられるか?なんで入れないといけない?手当てして欲しいってこと?それか?

「はぁぁ…」

はぁああ?溜め息?今の、どういう溜め息なんだ?溜め息はこっちがつきたいんだよ……あぁ…何に巻き込まれてるんだろ俺…。今日って俺にとって何か試されてる日なのか?…。厄日ってことか。

「……トイレ。トイレ貸してください…」

「え?トイレ?!」

「もう…駄目…漏れちゃうか、も…」

「ちょ、ちょっと待って!」

嘘だろ…。いまさら嘘に決まってる。トイレならとっくに言ってるだろ?……あー、さんざんな日だ…。きっと俺は宝くじの高額当選する程の確率で厄介なことに巻き込まれたに違いない…。

「…早く!お願い…開けて」

あ、も゙う。

「…あぁ、入って直ぐです。…どうぞ」

渋々だ。あっ。言い終わらない内にドアノブに手をかけていた俺の手ごと回して引いた。飛び込んで行った。

「ひ、左ですよ」

って、迷わず開けてるし。はぁ、………物凄く俊敏に動けるじゃん…体は大丈夫らしい。トイレに行きたかったのはどうやら本当らしいな。………いや、本当に本当か…?
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