その人は俺の・・・
・episode4ー戻りますー
はぁ。寒い。
季節はまさに冬の入り口。
ここはいつもこんなに賑やかなのだろうか。
どんなにお洒落をしていても、していなくても、解らない。そんな季節の到来。
今日の私はコートを着ている。
平日なのだけれど、こんなにも人が多いなんて。それはあの時と同じ。観光客も多いようだ。日本人だけではない。外国人の観光客も。
一緒に歩いている人に夢中で、お店の品物に夢中で、私が一人だとか、どんな思いで居るのかなんて誰も知らない。知るはずもないし、内面に興味だってあるわけない。
一人だって勇気を出さなければ…。何も始まらない、始められない。大袈裟?…フフフ。あの日は樹君が居てくれた。

「あの…」

「はい、いらっしゃい」

…。

「ん?」

「あ、あの、そ、それを、一つ」

…ください。指をさしてお願いした。

「こちらですね。……はい、どうぞ、熱いですよ~。それから、飛び切り美味しいですよ~」

知ってる。

「…有り難う」

同じだ。同じように包まれ、袋に入れられ渡された。
同じではないのはそれを直ぐ取り出さなかったこと。割って半分にしなかったこと。はふはふと熱さを堪え食べなかったこと。
この中のものは大事なもののように思えた。
抱え込むようにして持った。

ここから先は未知。
どんなお店がどれだけあるのだろう。
人で溢れかえっている通りは店の前に来るまでそれがどんな店なのか…ワクワクするはずなのに。
美味しそうな匂いが漂っている。
そうなんだ、店に対するワクワクも、一緒に居る誰かが誰なのかで無になってしまうものなんだ。それ以上に一人だと、無の無だ。何も感じない。

「…アキさ~ん」

誰かの声がそう都合よく聞こえた。

「は~い、こっち~」

「あ、居た。アキさん」

間違いではなかった。
それは誰かがアキさんを呼んだ声だった。
別のアキさんだ。
待ち合わせ?こんな混雑したところで?
あぁ。この店でって、ことなのね。
だったらどんなに人が居たって会えないはずはないわね。
真っ直ぐ歩いてまた引き返す?
それではこのノロノロとした歩きでは帰る時間をオーバーしてしまうか。
では、向こうまで行って、そのまま帰ろう。

「愛生さん?…」

「は、い?」

後ろで声がした。
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