オオカミさん家の秘密
まあ、関心なんてない方がやりやすいからいいんだけどね。
直にこの家出ていくつもりだし。
「父さんが引退したら虎がこの家継ぐのかあ〜」
パンをもぐもぐ。
虎は私を見てニコニコ笑う。
愛想良く育てられた虎。
感情に絆されないように厳しく育てられた私。
文字通り正反対に育った。
けど学校ではいい子を演じてる。
「狼、忘れ物。」
用意を全て終わらせて玄関で靴を履いていると後ろから虎が声をかけてくる。
振り返ると虎の掌には小さな器具。
「それ、ないと聞こえないだろ。」
「あってもそんなに変わらないけどね。」
虎が手渡してきたのは私の補聴器。
私は左耳が聞こえていない。
父親に聴力を奪われたんだ。
虎は補聴器をつける私を見て静かに微笑む。
「狼、俺がこの家を継いだらお前を自由にするからな。
…だからそれまで待っててくれよ。」
…そんなの叶うわけないじゃん。
組なんて、財閥なんて、殺し屋いないと回らないのに。
自由なんてあるわけない。
けど、あるわけないけど。
虎が、そう言ってくれるだけで嬉しかった。
「うん。
…行こ。」
「そうだな。」
玄関を開けて、車に乗り込んで学校へ行く。
学校に着けば大神狼ではなく、白井心として過ごす。
虎は車で大きく深呼吸して白井健の顔になる。
「行ってらっしゃいませ。」
「行ってきます。」
車から降りて私は虎とクラスまで歩く。
…校舎裏。
無難なところでなんという無難な光景だろう。
むしろここでしかこういうこと出来ないのかな。
虎は先にスタスタ歩いていく。
ため息を1つして私は校舎裏へ向かう。
「失礼。あなた達、何してるの?」
「…ああ、白井さんか。」
「そうだけれど、私の問いに答えてくれる?」
私そんなに気長じゃないから。
「こいつ、知ってる?
嵐王の姫なんだけどさ。
あ、元だけどね。」
…知らないわけがない。
寧ろ知り尽くしてる。
嵐王のことは。
「知らない。」
「こいつ、相川千星ってーの。
だけどこいつ、嵐王裏切ったんだってよ。」
「…そうだったの…
だからといって、あなた達が彼女をいじめてもいい理由にはならないのでは?」
「嵐王から見放されたこいつをいじめないわけないじゃん!白井さんの友達ってんなら見逃すけどよ!」
相川千星の真っ暗な瞳。
…ほんとに彼女が裏切ったのか?
「では彼女をいじめるの辞めてくれる?
彼女は私の大切なお友達だから。」
「は?まじかよ。そういうのは早く言ってよ白井さん!」
「ええ、秘密にしていたのだけれど、言っちゃうね。
私、千星と友達だから金輪際こういうことしないでくれる?」
まあ嘘ですけど。
「ちっ…白井さんなら分が悪いよ…行こ。」
よく分かってるんだ。
私が相手だと良くないって。
バタバタと忙しそうにかけていく彼女ら。
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