禁猟区のアリス


ここは……。

目を開けると、口から大きな空気の固まりが吐き出された。

どこか遠くで、パパが何かを叫んでいるが、わたしには聞こえない。

空っぽの肺は新鮮な空気を欲しがったけど、わたしはもう体を動かす力もなく、そのまま大量の水を吸い込んだ。


痛いことにも、慣れた。
苦しいことにも、慣れてしまった。

でも……。

ママが連れてきた新しいパパには、慣れることができなかった。

ママはわたしよりも、新しいパパが好きだ。新しいパパが来てから産まれたカルナには、とっても優しい。ママのお腹には、今も新しい赤ちゃんが入っている。


ちゃんとしなさい。きちんとしなさい。お姉ちゃんになるんだから。

わたしがちゃんとした子供でいないと、カルナにはアクエイキョウなんだって、パパが言った。ちゃんとした子供でいないと、カルナにアクエイキョウなんだって。だから、わたしが「ちゃんとした」子供になるために、パパがわたしをキョウイクする。

でも、「ちゃんとした」子供がなんなのか、わたしにはわからない。


冷たいお風呂に押し込められるのは、苦しい。叫べば余計に、息ができなくなる。

水に沈んだ耳の中で、トクントクンと鳴るのは、わたしの心臓だ。

その音が聞こえている限り、わたしはまだ生きている。水の中では、わたしが生きている音しか聞こえない。
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