名前を呼んで、好きって言って

翠と呼ばれた彼は、不服そうに言う。


たしかに、呼ばれて悪口を言われるのは、誰だっていい気はしないだろう。


「今は、な。これからするだろ」


京峰先生はそれでも同じようなことを繰り返した。


「なにそれ。僕がこの子をいじめるとでも言うの?」
「翠が吐く毒は、ちょっと加宮ちゃんには刺激が強いって話よ」


彼の見た目から、毒のような言葉が出てくるところが想像できない。


「やっぱ藍ちゃん先生もそう思う?」


春木君が同調してきた。
彼は頬を膨らませ、私の前に座った。


「僕、初対面の人にまで悪口言ったりしないから」
「悪口言うこと、認めてるし」


京峰先生は小声で、笑いながら言った。


ずっと聞いていて思ったけど、毒を吐いているのは、先生の方だと思う。
これでは、彼が可哀想だ。


「もう、なんなのさ。僕がダメって言うなら、柊斗連れてくれば?」


完全に拗ねてしまい、彼は突っ伏した。


「そうか。じゃあ秋保、ちょっとだけ待ってて」


そして春木君は保健室を出ていってしまった。


その結果室内は静かになった。


「で、お前はいつまでそうしておくつもりだ?」
「僕思うんだけど、藍兄の方が毒強くない?」
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