もうそばにいるのはやめました。
“委員長”だった彼が、わたしの知る“彼”に変わる。
八文字 夏彦――ナツくんは、わたしの執事だった人の兄だ。
学業や家のことでどちらも忙しくなり会わなくなってしまったけれど、わたしにとっては大切な幼なじみみたいな存在。
「会社倒産したんだってね。大丈夫……じゃ、なかった、よね」
「……そんなことないですよ。初めは不安だったけど、お父さんとお母さんが頑張ってくれたおかげでこうやって生活できています」
「ならよかった。ずっと心配してたんだ。俺も……もちろん弟もね。でも今の寧音ちゃんを見る限り、弟のほうが大丈夫じゃないかもしれないな」
「え!?なにかあったんですか!?」
「風邪引いてるわけじゃないから安心して?……ただちょーっと生きる意味を見失ってるだけ」
それは風邪よりよっぽどタチが悪いのでは!?
「い、生きる意味って……」
「安心してってば。別に死ぬわけじゃないんだし」
「……で、でも……」
「心配しなくてもいいよ。あいつは“生涯の主”ってやつを早く見つけすぎちゃったんだけだから。きっとまたすぐ生きる意味を見つけちゃうよ」
ナツくんがここまで言うんだ。
大丈夫じゃなくても、大丈夫になるんだろう。