もうそばにいるのはやめました。


けげんそうにすれば、斎藤は上品に一笑した。



「意味わからないって顔してるね」



しょうがねぇだろ。

本当にわからねぇんだ。


俺を好きなわけでもないのに、なんで嫉妬なんかすんだよ。



「当たり前か。誰にも話したことないし」



さらり、とミルクティー色の髪を耳にかけた。




「あたしね、うらやましかったの。相松くんと寧音ちゃんの関係が」


「俺と、寧音の……?」


「小4のころ、バイオリンのコンクールで審査員の娘さんが特別枠として参加者の審査の前に特別に演奏したことがあったの。その子はあたしと同い年なのに、楽しく伸びやかに演奏してた。あれほどすてきな音色を聴いたのは初めてだった」


「……斎藤もバイオリンやってたのか」


「今はやめちゃったけどね。……やっぱりおぼえてないか。そのコンクールに相松くんも出場してたんだよ。1位をとったのも相松くんだった」




小学4年生。バイオリンのコンクール。伸びやかな演奏。


既視感をおぼえた。


まさか。

そんな偶然あるはず……。



『え!?お母さん審査員じゃなかったっけ!?』



脳裏に現れた、忘れられない人。


たしかあの女子がそう言っていったっけか。



審査員の娘……。

偶然にしてはあてはまりすぎている。


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