彩りのある場所で、恋を
俺の切ない想いは知らず、先生は綺麗な声で授業を進めていく。この教室の中で、何人の男子が先生の声に聞き惚れているんだろう。何人が、ときめいているんだろう。

さっき読んだ和歌の意味は、こんな風にあなたに恋をしているなんてとても言うことができない。だから伊吹山に生える「さしも草」のお灸のように、僕の心の中で静かにくすぶり燃えている想いを、あなたは知らないだろうね。

本当に、その通りだ。どれだけ話しても、この距離は縮まらない。先生は今だって生徒として俺たちを見ている。

「それじゃあ、岡田くん。稚児のそら寝を読んでくれる?」

俺に玉井先生は微笑む。笑顔が向けられたことは嬉しい。でも、胸が同時に苦しくなるんだ。

「……はい」

俺は立ち上がり、教科書を読んだ。



玉井先生が高校二年生の四月にこの学校に来た時、美人な先生だとは思ったけど、一目で恋に落ちるなんてことはなかった。

「玉井栞です。美術のことはあまりわからないので、みなさん教えてください」

玉井先生は、俺の所属する美術部の顧問になった。美術と全く関係のない先生が顧問になったことに、俺たちは最初はとても戸惑った。でも……。
< 2 / 12 >

この作品をシェア

pagetop