KANATA~answers of your selection~
「う...うん」


「長内教授!阿部奏太さんがやっと目を覚まされました!」



なんだか周りが騒がしい。


ヘルメットのせいで耳が塞がれ、キーンとかピーとかいう音しか聞こえないが、微かに開いた目から見える景色でだいたい察しがついた。


オレは戻ってきたんだ。


自分の世界に。



「いやあ、予定より1日も長く寝ているとは、びっくりだよ、奏太くん」


「は?」


「薬の効果はとっくに切れたはずなんだが、あちらの奏太くんがだいぶ引き止めてしまったみたいでもう10日になってしまったよ」



8月10日...。


こんなところにいられない。


早く辻村を助けに行かないと。



「長内さん今何時ですか?」


「今は12時17...いや18分かな」


「ここから青葉大学付属病院までどのくらいかかりますか?」


「は?青葉大病院?急になんだ。まさか情報を横流しにする気か」


「いや、そういうことじゃなくて...」



ったく、この人はどんだけ自己中なんだ。


自分の利益とか名誉とかしか頭にないではないか。


こんな教授の元で勉強するなんてオレは勘弁だ。



「助けにいかなきゃならないんです。じゃないと辻村は死ぬ」


「誰だい、辻村って?どんな理由があろうと事後検査もしなければならないし、奏太くんにはまだ残ってもらわなければならない。意味不明なこと言って逃げようなんて思うな」


そうこうしている間に5分経過している。


早くしないと間に合わなくなる。


でも、どうすれば...。



「長内教授、お客様がお見えです」



あっ、松井さん。


オレに向かって左目でぎこちないウインクをしてくる。


もしかして松井さん、オレを助けてくれようとしているのか。



「どちら様?」


「文部科学大臣の福留様です」


「うわあ、これは参った。今すぐ行かないと」


「阿部奏太くんは私が検査室に連れていきますので、教授は直ぐ様お会いする準備を」


「すまないが、よろしく頼む。では行ってくる」



長内教授は松井さんの言葉を疑うことなく、研究室を出ていった。


長年一緒に研究して来た人に裏切られるなんて教授も考えられなかったのだろう。


信頼関係も恐ろしいものだ。


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