KANATA~answers of your selection~
第5章
「あの、松井さん」


「何?」


「色々と聞きたいことがあるんですけど」


「さっきも言いましたよね?今は大事な人のことを考えてくださいって」


「いや、そうなんですけど。その...彼女はたぶんオレの深刻な表情とか見たくないと思うんです。オレが悪いことを考えて悩んだり、辛そうにしてたら彼女はきっと笑えません。オレは...彼女が笑っている姿が好きなんです。泣き顔なんて似合わない人だから、オレが悲しませちゃダメなんです。だから...」


「分かりました。そこまで言うなら楽しい話をしてくださいね」



松井さんがいい人で良かった。


オレのために車を出してくれるし、オレの意味不明なわがままにも付き合ってくれる。


こんな人滅多にいない。


松井さんが担当で本当に良かった。



「じゃあ、質問の1つ目です。なぜ、松井さんは長内教授の研究室に入ったんですか。見た目や話し方からすると、パラレルワールドとか、そういうファンタジーの類いは嫌いそうに感じるんですけど」


「そう見えますよね。でも、こう見えて私、幼い頃からファンタジー系が大好きで、映画とか見るってなったらそういうものしか受け入れられなかったんです」


「なんだか、意外ですね」


「空想ばっかりして友達もいませんでした。皆私に一目置いてたし、私自身友達がいなくてもいっかって開き直ってたんです。でも、大学に入って宇宙や物理学、量子力学などを勉強するうちにパラレルワールドに憧れている自分に気づいたんです。こんな自分じゃなかったらどんな人生を歩んでいたんだろうとか、真面目に考え、悩むようになりました」



...そうだったのか。


やはりどんな人でも自分の選択が正しかったのか悩んだり、異なる世界があったらどんな生活をしていたのか気になるんだ。


正しいとか間違っているとか、そんなの答えなんてないのに、自分の中での正解を見出だそうとしている。


それが人間なのかもしれない。



「そんな私が変われたのは、長内教授に出会ったからです。夢の中でだけでも異世界に行けて自分の姿を見たり、他人の話を聞いたりして自分というものを見つめ直し、自分は自分、どの世界の私も皆松井英里だって受け入れることが出来ました。それだけじゃない。異世界の自分が出来なかったことをしよう、しないで後悔したことをしよう。そう思ったんです。実は今日のこれもそうで...」



オレには分かった。


松井さんとオレは数十分でも夢の中の異世界で繋がったんだから分かる。


松井さんが眠っていた時、別世界に被験者としてオレがやって来て、目が覚めた際に教授に懇願したのを拒んだんだ。


そしてその後オレは検査を普通に受け......


手遅れになった。



「こんな私でも人のためになれるのなら、私は自分の名誉や利益を捨てても自分がその瞬間正しいと思ったことをやりたいと思うようになったんです。それが1番後悔なく、自分の中で正しい人生を歩んでいるってそう心から思えるから」


「そうですね。オレもそう思います」


「賛同して下さってありがとうございます」


「そんな、お礼を言われるまでのことしてませんよ」


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