キミが、消えた
ゆかりが観たがっていた恋愛映画を観に行ったりした。
 「この映画、泣けるね」
 「そう」
 「そうよ。だって死んでしまった人のことを今も想い続けているなんて、素敵よ」
 「そうかな」
 「そう?」
 僕は栞が好きだ。死んでから、好きだと気が付いた。その想いを断ち切るために僕は他の女に走った。こう考えると、僕は人として最低の事をしているのではないかと思わされ、胸が締め付けられてしまう。
 偽りの恋人。心の中の恋人。二人の女性が今、僕の中にいる。
 
 ある日の下校中、僕とゆかりはファーストフード店で一緒に勉強をすることにした。
 一緒に同じ高校に行けるように僕は猛勉強している。数学の成績が足を引っ張っており、ゆかりに教えてもらいながら一つずつ項目を消化していった。
 勉強の休憩中、僕はゆかりに何故告白を受け入れてくれたのか尋ねてみた。その返事は
「勇気を感じたから」だという。実はゆかりはその美貌とは相反して男性に告白された事が一度も無いそうだ。そして、
 「実は浩二君のこと、まだ好きじゃないの」
 と言ってきた。
 「それどういうこと?」
 「付き合ったら好きになるかもしれないって、思って」
 「そっか」
 僕は落胆した。でも自分も似たようなことをしているんだから、おあいこというもんだ。
 僕は勇気を出して、ゆかりに自分が栞を好きになったことを話してみる事にした。
 「実はさ、ゆかり」
 「何?」
 「キミ、栞のこと、覚えてるよね」
 「勿論。残念だったね。」
 「ああ」
 「そういえばあなたの幼馴染だったよね」
 「小学校が一緒だっただけだし、特別親しかったわけじゃないよ。ただ」
 「ただ?」
 「葬式の日に彼女のお母さんからアルバムをもらって、そこには僕の写真が一杯あってさ。それを見ていたら、何だか彼女のことが好きになってしまったんだ」
 「正気? 彼女はもう死んでるのよ。」
 「分かってる。でも、好きになってしまったんだ」
 「それじゃあ何、私は栞を忘れるためだけの女ってこと」
 「そういうわけじゃないよ。でも、こんな経験初めてだから、困ってるんだ」
 僕の言葉を聞き続けていたゆかりは、おし黙っていた。これは別れることになりそうだと覚悟していたが、彼女は予想外の反応を示した。
 「素敵。じゃあ私には恋のライバルがいるんだね」
 「そっそういうことになるのかな」
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