愛してるからさようなら
 その後も、須原くんは頻繁に食事や飲みに誘ってくる。

私は誰もいない事務所で須原くんに言った。

「須原くんなら、普通に同級生とか
 サークルの子とか誘えば食事くらい誰でも
 行ってくれるでしょ?
 なんでわざわざ私みたいなおばさんを
 誘うの?」

私だって、本当に自分のことをおばさんだって思ってるわけじゃない。

だけど、21歳の大学生から見たら、25歳の社会人はやっぱりおばさんだと思う。

「何言ってるんです?
 桃香さんは全然おばさんなんかじゃ
 ありませんよ。
 俺の好きな人をおばさん呼ばわりするの
 やめてもらっていいですか?」

ん? それって……

「須原くん?」

「俺、桃香さんが好きです。
 桃香さんだから、誘ってるんです」

須原くんは、さらりと爽やかに、まるでお天気の話でもするように好意を告げた。

どうしよう。
これ、断るべき?

でも、告白はされたけど、付き合って欲しいとかそういった類いの話はされてない。

されたのは、今夜の食事の誘いだけ。

「ごめん。
 家に食事の用意してきちゃったから、
 今日は帰るね」

私は、須原くんの誘いを断って帰宅する。

作り置きのお惣菜を食べながら思う。

須原くんは、なんで私なんか好きになってくれたの?
須原くんなら、若い女の子も選り取り見取りだと思うのに。


 それからも、須原くんは事あるごとに誘ってきた。

 私は、それを毎回、さり気なく断る。

須原くんは、すごくいい子だと思う。

素直でのびのび真っ直ぐ育った感じがする。

だけど、だからこそ、私なんかにはもったいない。

須原くんには、きっともっとお似合いの子がいるはず。

だから、私は須原くんを好きになっちゃいけない。

好きになれば、後で傷つくのは私。


だから、どんなに誘われても、私は毎回断ってきた。



 だけど、全てはあの雪の日に変わってしまった。
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