お見合い結婚します―お断りしましたが?
15.早速デートの申し込みをした!
次の週の水曜日の昼休みに携帯へ電話した。番号は登録されているから僕からと分かるはずだ。すぐに出てくれた。

「植田です。早速だけど、今度の土曜日、もし予定がなければ、僕の愚痴でも聞いてくれないか? もちろん君の愚痴も聞いてあげるけど、どうかな?」

「申し訳ありません。土曜日は予定が入っています」

「そうですか、残念です」

「日曜日ではだめですか?」

「僕は日曜でもかまわないけど、何時からなら都合がいい?」

「2時ごろからならいいです」

「場所は二子玉川。改札口で待ち合わせることでどうですか?」

「それでいいです」

「じゃあ、楽しみにしています。ありがとう」

「じゃあ、その時に」

断られるかと思ったが、彼女の方から日曜なら良いと言ってきた。脈がある。嫌われてはいないようだ。いや、むしろ好意を持ってくれているかもしれない。ここは頑張ってみるか?

◆ ◆ ◆
日曜日の2時少し前に駅に着いた。改札口を出ると奈緒が待っていてくれた。僕より早く来て待っていてくれた。それが嬉しかった。

「待たせて御免」

「いえ、今来たところです。今日はお天気がいいので、川べりを散歩しませんか?」

「いいね。気持ちがよさそうだ」

少し歩いて川べりへ降りた。遊歩道がずっと続いている。そこをランニングしている人が行き交っている。恋人同士なら手を繋いで歩くところだろうけど、触れてはいけないと言われている。

「休みの日は何をしているの?」

「お洗濯をしたり部屋を掃除したりがほとんどです」

「どこかへ出かけないの?」

「仕事で都心に出ていますから、休日は家で休養というところです。昨日は友人と絵画の展覧会へ行ってきました」

「絵は好きなの?」

「書くのは苦手ですが、見るのは好きです」

「それはいい趣味だね」

「植田さんはスポーツとかはどうなんですか? そんなに太ってもいないみたいですから」

「運動は苦手です。運動神経が良くはないと思っています。ただ、健康のため、毎朝、腹筋と腕立て伏せを何回かしています。それにできるだけ歩くようにしています。会社でも2、3階くらいなら階段を使うように心がけています。それに過食に気を付けています」

「良い心がけですね」

「そのため、入社以来、服のサイズはほぼ同じです」

「結構、几帳面で健康志向なんですね」

「そうかもしれない。部屋も綺麗に掃除しているよ。休みの日にだけど、それに洗濯も毎日しているよ」

「綺麗好きなんですね」

「整理整頓は好きな方かな。僕は物覚えがあまり良くない。整理整頓しないとどこに何があるかすぐに分からなくなるので」

「欠点をカバーする生活の知恵ですね。勉強になります」

「今日もきちんと掃除してから来た。まだ、僕の部屋に女子は入れたことがない。君が最初の人になるかもしれないと思っている」

「私は絶対に男の人の部屋へはいきません」

「結婚が決まっても」

「はい」

「どうして」

「いやなんです。結婚の前に」

「今時どうなんだろう。そうして相性を確かめた方が良いと言う人もいる」

「この前の破談はそれが原因でした」

「君の方から断ったといっていたね」

「彼の家でこれからのことを打ち合わせようということになって、私は結婚前にはそういうことはしたくないと伝えて、彼も承知してくれていました。でも約束を守ってくれませんでした」

「彼の部屋で求められて、無理やり関係を強いられました。私はそれがいやですぐに帰りました」

「彼にしてみれば、ごく自然な求めだと思うけど」

「でも、約束したのにその約束を守ってくれませんでした」

「彼は君が受け入れてくれると思っていて、失望したと思うけど」

「約束は約束です。信頼していましたが裏切られました。それがショックでお断りしました」

「彼は何と言った」

「彼は諦めたみたいです。何も言ってきませんでした」

「彼も拒絶されてショックだったと思う。結婚しようと婚約までしている相手に信頼されていないのかと思って」

「君への愛情表現だったと思うけどね。自分の部屋に招き入れて何も求めないと言うのは君に関心がないと言うのと同じでそれがいやだったと思う。そうすることがある意味、愛情表現だったと思うけどね」

「それを受け入れるほど、好きではなかったということかもしれません」

「お見合いならしょうがないかもしれないね。普通だったら、そのとき自然に結ばれていたと思うけどね」

「そうなんですか」

「想像だけど一般的にはそうだと思う。ただ、僕にはそういう経験はない。だから結婚していない」

「由美さんは小森さんとはそういうことがなかったと言っていました。だから結婚する気になったと言っていました」

「由美さんとはそういう話もしていたのか、親友なんだね。小森君はそういうやつだ。気持ちが優しい、いいやつなんだ。僕は入社したときから付き合っていたからよく分かる」

難しい娘だと思った。何が彼女をそんなにかたくなにしているのだろう。付き合っていけば、いずれ分かるだろう。

奈緒は川の流れをじっと見ていた。何かを考えているように見えた。駅の方へ向かおうと合図するために彼女の肩に手をかけた。彼女が肩をすくめて跳びあがった。「私に触れないで」と言っていたことを思い出した。

「ごめん、約束を忘れていた。ごめん、もう絶対にしないから約束する」

「お願いします」

僕がすぐに謝ったので許してくれた。気を付けよう。本当に難しい娘だ。ちょっと触れただけなのに、そんなにさわられることがいやなのか? 敏感なのか? 少し病的だ。

それから、二人は駅前のコーヒーショップでこの前のようにコーヒーを飲んだ。ガラス越しに小森夫妻が仲良く手を繋いで歩いていくのが見えた。

「うらやましいね。僕たちもああなれたらいいと思うけどね」

「結婚するっていうことですか」

「いや、仲良く手を繋ぎたい」

「あなたはそれだけで済みそうもないですから」

「大丈夫、約束は守るから」

「お話しするだけの約束ですから」

「それなら次はいつ会える? 食事でもしないか?」

「それなら、来週も同じ時間にここで散歩しませんか?」

「代り映えしないけど、君に逢えればそれでいいか。そうしよう」

何とか次のデートの約束ができた。
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