お見合い結婚します―お断りしましたが?
22.奈緒を実家へ連れてきた!
僕の両親には飯塚奈緒さんと婚約するまでの経緯を簡単に電話で説明して、彼女と今度の土曜日に一緒に帰省すると伝えた。両親はとても喜んでくれた。

スケジュールは午前9時ごろの新幹線で東京を出発して12時前には金沢に到着し、実家へ向かう。両親と会って話をしたのちに、近くの料亭で食事をすることになっている。それから4時前の新幹線で東京へ戻ってくる。十分にゆとりのある日帰りコースだ。

指定席券を取ったので、新幹線の車内で落ち合うことにした。ホームに着くともう奈緒は前の方に並んでいた。奈緒は落ちついたグレーのスカートに白い長袖のブラウスを着ていた。そして、ハンドバックと手土産の紙袋を下げている。僕もズボンに半袖シャツの軽装で手土産を持ってきた。奈緒に到着を合図すると笑顔で答えてくれた。

奈緒が窓際に、僕が通路側に座った。乗車前に買った缶コーヒーを奈緒に渡した。奈緒は北陸新幹線に乗るのは初めてだと言っていた。

動き出してからずっと窓の外を見ている。僕はその横顔をずっと見ていた。とうとうここまできた。婚約者と二人で帰省することになろうとは半年前は思いもしなかった。

いつの間にか眠っていた。気が付くと富山駅を出たところだった。

「お疲れですか? 随分気持ちよく眠っておられましたけど」

「ああ、昨晩はあまりよく眠れなかったから」

「どうしたんですか?」

「今日のことが気になって、いろいろ考えてしまって」

「何が気になっているのですか?」

「両親が君に余計なことを言わないか心配している。君が気を悪くすると困るから」

「ご両親に気に入られるようにしますから、そんなに心配しないで下さい。大丈夫です」

「そう言ってくれると気が楽になる」

すぐに金沢に着いた。タクシーで実家に向かう。駅で連絡を入れておいたので家の前で二人は待っていた。タクシーを降りた奈緒に母が嬉しそうに近づいてきた。

「奈緒さん、ようこそいらっしゃいました。母の恵子(けいこ)です」

「父の(みつる)です。どうぞお入り下さい」

僕の家は父親が建ててからもう20年近くなると思う。そのころは流行の作りだったけど、今はどことなく古くさい感じがしている。兄と僕が東京へ就職してから、2階はほとんど使っておらず、僕の部屋はそのままにしておいてくれている。

奈緒と僕はそれぞれ手土産を母に渡して、リビングのソファーに座った。いつもと違って今日は綺麗に片付いている。奈緒が緊張しているのが分かる。

母が聞きたがると思ったことは、僕の方から話した。それから、知り合って、今に至る経緯をかいつまんでもう一度話した。両親はご縁があったのだと感心していた。奈緒も頷いていた。

奈緒は聞かれることには丁寧に答えていたが、自分からは両親に質問することはなかった。それが無難なことと奈緒は分かっている。

30分ほどして、4人は父の車で会食の会場へ向かった。ここは父の知り合いが開いている料亭で、僕も一度来たことがあるが、料理はおいしい。母の家庭料理よりもよっぽどいいからと僕が提案した。

奈緒は僕の両親の前なので料理を味わうゆとりがないかもしれない。来るときにそう話したが、楽しみだと言っていた。

出される料理は美味しかった。奈緒もとても美味しいと言って食べていた。ビールを飲んだ。父は運転があるから飲まなかったが、奈緒も母も少しは飲んでいた。

僕は奈緒が母親とうまくやっていけるかが心配だ。まあ、僕は次男坊だから、それほど気に掛ける必要はないと思っている。兄貴のお嫁さんと母親とはそれほど良好ではないようだ。この頃はほとんど二人では帰省していないと聞いている。まあ、それが普通なのだろう。

母は奈緒が気に入っているようでニコニコして話している。父は息子ばかりで娘がいなかったから嫁は可愛いと言っているから問題はない。

和やかな雰囲気の中で会食を終えることができた。個室から出るときに、僕は奈緒に指でOを作って合図した。奈緒はニコッと笑った。

それから、父の運転で4人は駅へ向かった。出発までゆとりをもって駅に着いた。奈緒とゆっくり土産物売り場を見て歩こうと思っていた。母と僕たちが降りて、父は車を駐車場に置きにいった。

駅の様子が変だった。駅の係員に聞くと、信号機の故障で新幹線が不通になっているとのことで、復旧の見込みも立っていないと言う。しばらく様子を見ていたが変わる気配がない。

今日は土曜日なので、明日の日曜日に帰れば問題ないが、日帰りのつもりで来たので、二人とも泊まる準備はして来ていなかった。

僕は自宅に泊まるにしても、奈緒の宿泊先を探さなければならない。二人で駅の旅行案内所へ行ってホテルの空室を探すが、難しいと言う。

丁度、医学関係の大きな学会が週末にかけて開催されており、どこも満室だと言う。そういえば、来る時の新幹線も満員だった。ネットで探せばないこともないが、どこも駅から遠いところばかりだ。困った。

「お家に泊まってもらえばいいじゃないの? 2階に部屋もあいているから」

「そうだね。どうする?」

「それじゃあ、申し訳ありませんが、そうさせていただきます」

「それがいい」

「でも泊まる用意はなにもしてありませんが?」

「僕がなんとかするから心配しないで。それより、ご両親が心配するから連絡しておいた方が良い」

奈緒は少し離れたところから家に電話を入れていた。それから、実家への途中でコンビニによってもらって、二人は必要なものを購入した。

それからスーパーに寄って夕食の食材を購入した。母は料理が簡単だからすき焼きにすると言う。

家に着くと母はすぐに僕たちが泊まれるように準備すると言って2階へ上がって行った。
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