君がいれば、楽園
 付き合い始めた翌年から、彼は毎年わたしの実家に顔を出していたが、もうその必要はない。
 新たな年を一緒に過ごすことはないのだから。

「そういうわけにはいかないだろ? 今年だけそんなことをしたら、何て言われるか……」
 
 いがみ合ったり、憎み合ったりしないよう、自然と関係を終わらせる。

 そういうやり方もあると知っているけれど、わたしにはできそうもなかった。

 いつが終わりだったのかわからないまま、いつまでも冬麻が戻って来てくれるのを待ってしまいそうだから。

「もういいよ、そういうことしなくても。わたしが、人の気持ちを察するのが苦手だって知ってるでしょ? 時機を見てフェードアウトするとか、そういう気遣いされてもわからないから、はっきりさせてくれていいよ」

「……なに、言ってんの? 夏加」

 滅多に怒ることのない彼が、表情を強張らせる。

 急に、怖くなった。

 はっきりさせてとは言ってみたけれど、やっぱり彼から言われたくない。

 だから、先に言うことにした。

「別れよう。他に好きな人がいるのに、一緒にいる意味ないよね?」

 重苦しい沈黙。

 ややあって、彼が答えた。

「夏加がそう思うなら……俺たち、別れたほうがいいかもな」
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