君がいれば、楽園
 終バスに乗って帰る気力はなかった。

 ――タクシー呼ぼう……。

 いつもの習慣で鞄の中を探り、壊れてしまったのだと思い出す。

 十数年ぶりに公衆電話で、目の前の壁に張られていた広告のタクシー会社に電話をかけ、ついでに実家にも電話する。

『もしもし』

「もしもし……お母さん?」

『……え? あら、あんたなの! どうしたの? こんな夜中に? 何かあったの?』

 三コール目で電話に出た母は、わたしの声を聞くと驚いた。

「あー、うん。かぼちゃが……」

『ああ、届いたのね! 冬麻くん、煮つけが好きだったなぁと思って、たくさん送っちゃった。二人とも、元気にしてる? お正月は一緒に帰って来るの?』

 娘の女子力の低さを知っている二人は、「結婚」の二文字をちらつかせることはないけれど、形にこだわらない付き合いを認めるほど物分かりがいいわけでもない。

 いつかわたしと冬麻は結婚すると思っていただろう。
 別れたと言えば、問い詰められるのは確実だ。

 いまはまだ、どんな質問にも答えられそうにないから、話したくなかった。
< 21 / 63 >

この作品をシェア

pagetop