君がいれば、楽園
「で、具体的にどんな名前付けてるの? まさか元カノの名前とか?」

「ちがうと思う。ジェニファーとか、キャサリンとかだし。うちにはないけど、盆栽は『ヨネ』とか『ミツコ』とか和風の名前みたい」

「ちょっと待って……盆栽って……ミツコって……」

 爆笑した弟は、しばらくの間、息も絶え絶えに悶えていたが、笑いの発作が治まると真面目な顔で質問を重ねる。

「でもさ、植物も音楽聞かせたり、話しかけたりすると喜ぶって言うじゃん。人間だけじゃなく、植物にも愛を注ぐってことは、それだけ愛情深いってことなんだから、いいんじゃないの? それとも……姉ちゃんのことも、葉っぱたちみたいにかまってほしいわけ?」

 甘い声で囁き、長い指で愛おしげに葉っぱを撫でる彼の姿を思い返し、頷いた。

「……うん」

「葉っぱと同類の扱いされたいって……笑える」

「それから?」

 オッサン紳士は、失礼な弟のように笑ったりせず、穏やかに続きを求めた。

「それから……オカンなところ」

「オカン……冬麻さんも姉ちゃんも、関西出身じゃないよね?」

「でも、オカン。自分だって、仕事が立て込むと平気でご飯抜くくせに、わたしが家に持ち帰って仕事してると、ちゃんと食べているのかとか、お風呂には入ったのかとか、洗濯物にカビは生えてないのかとか……口うるさい」

「いやいや、姉ちゃんが家に仕事持ち帰るのって、デスマーチになってる時じゃん? 冬麻さんがいなかったら、過労死してるんじゃね?」

 確かに、持ち帰ってまで仕事をしなくてはならない事態のとき、睡眠時間はおろか食事の時間だって惜しいくらいにテンパっている。掃除洗濯なんて、している暇はない。
 彼が家にやって来て、あれこれ口出しするのは鬱陶しい反面、ありがたい。

「メシも作ってくれるんでしょ?」
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