君がいれば、楽園
 本当なら、昨夜ちゃんと話すべきだった。
 怖くて、逃げたから、こんなことになっている。

 わたしは、覚悟を決めて口を開いた。
 
「この前、冬麻が綺麗な女の人と歩いているのを見た……」

「綺麗な女の人……?」

「信号待ちしていたら……二人で歩いていて、肩を組んでて……とっても仲が良さそうだった」

 冬麻が、小さく「まさか……アレか?」と呟いた。

 心当たりがあるその様子に、ズキリと胸が痛んだ。

「昨夜、スマホのメッセージも見た。見るつもりはなかったんだけど、偶然ポップアップのメッセージが目に入って……」

「メッセージ? 誰からの?」

「……アキ」

 華やかなあの女性に似合いそうな深紅の薔薇のアイコンだった。

「アキ……もしかして、これか?」

 彼は、ポケットから取り出したスマホを操作し、二度と見たくないと思っていたメッセージをわたしに突き付ける。

「うん……それ」

 もう、出し尽くしたはずの涙が滲む。

 しかし、冬麻は再び大きな溜息を吐いて……驚きの事実を暴露した。

「コイツの本名はアキじゃなく、『昭雄(あきお)』だから。肩組んでたんじゃなく、ヘッドロックだから。大学時代のサークル、プロレス同好会の仲間。プロレスするんじゃなく、鑑賞するほう」
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