君がいれば、楽園
「その足じゃ、ひとりで歩くの大変だろう? 病院、付き添うから」

「でも、仕事……」

「撤収入るまでは、大丈夫。まずは会社に連絡して、病院行ってから出社できるかどうか判断するって言ったほうがいい」

「うん……」

「食欲ないかもしれないけれど、軽く食べたら? パン焼くし。着替えはそのあとで」

 まずはカナコに、昨夜彼女と別れた後に起きた悲劇をメッセージで伝え、課長に病院へ行く旨報告する。

 どうにかひとりでトイレと洗面をこなし、トーストとコーヒーを胃に入れて、冬麻に手伝ってもらいながら着替えた。

「タクシー呼んだ。夏加を背負って転んで、俺まで怪我したら、しゃれにならない」

 準備万端、あとはタクシーを待つだけとなった頃、それはやって来た。
 心臓が、そこにあるかのように指が痛む。

「ああ、来たみたいだな。行くぞ、夏加」

 窓から外を見ていた冬麻が手を差し伸べた。

 その手を取って、立ち上がり、タクシーに乗らなくてはならない。

 わかっている。わかっているけれど……。

「い、痛い……」

「……夏加? 痛いって指か?」

「う、ん……もの、すっ……ごく……痛ぁーいーっ!」
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