Ⓒランページ




「それはそうとあなた」と黒猫は話をはぐらかした。


「こうは考えたことない? 実はこの世界は自分が主役で周りはエキストラ。そのことを知らないのは自分だけで、周りは全部知っている。だからそれに合わせようと演技をしてくれる。あなたに優しくしたり、嫌悪感を剥き出しにしたり、そういうことすべて台本みたいなものがあって、みんなはその通りに演じているだけなんだって」


「うーん、どうだろう」とキミは考える。その時間はごくごくわずかだった。キミは実際考えていない。いつもそうだ。キミは考えていない。考えているフリをしているだけ。


「多分思ったことない」


「でしょうね。でもここは夢の世界。つまりはあなただけの世界なわけ」


「そうなの? これって、夢なの?」


「そうよ、夢よ。これは夢。だから私は黒猫としてギターを弾ける。三日月に腰掛けられる。お腹が痛くなっても、歯を治せば治るし、歯医者の受付はイノシシだったり、カブトムシやクワガタが歯科医師だったりする」


「そう言われてみれば変ね」


「そうよ。夢だもの。でもそうとわかれば話は変わってくる。ここは夢なのだから、何をしようが自由ってわけよ」


「まあ、確かに」


「だから、試しに何かしてみない? そうねえ、私を黒猫じゃなくてフクロウにでも変えてもらえないかしら?」


「あなたはフクロウになりたいの?」


「別になんだっていいの。でもフクロウの方が割と都合がいいのよ」


「なるほど」とキミは呟いてそれから、


「でも、どうやってあなたをフクロウに変えたらいいの?」


「簡単なことよ。あなたが魔法使いになればいいの」


「私は魔法使いになんかなれないわ」


「もう忘れた? ここは夢の世界なのよ? 例えば」と言って黒猫は手頃な木の枝を拾ってそれを持った。


「この木の枝。これを振れば魔法が使える」


「ただの木の枝じゃない」


「そう思うからただの木の枝になるの。でも魔法の杖だと思えば魔法の杖になる。ここは夢の世界なんだもの。試しにやってみなさいな」


と言って、黒猫はキミに魔法の杖を渡した。



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