極甘クールな芸能人幼なじみの意地悪な溺愛
お昼ご飯を食べるのも忘れて、ずーっと読み耽ってしまった。
全然気づかなかったけど、私たちは二人だけの特別な時間をずっと一緒に過ごしてたんだね。
でももう今の私には、彼を独り占めしていい理由も資格もない。
ナツ君がいた部屋。
泣いちゃいそうでずっと入れなかったけど行ってみた。
がらんとして、殺風景で、ここにナツ君がいたなんてもう思い描くこともできなかった。
だけど机の上に、ハガキサイズくらいのメモ用紙をみつけて手に取った。
それは、子供が描いたイラストだった。
目だけにすごく力が入ってる、女の子が漫画のヒーローに憧れて描くような男の子。
ものすごーく、下手くそ。
涙が机の上にぽたぽた落ちた。
だってこれ、転校する時に私がナツ君にあげた絵だ。
『ナツくんのおめめの中はお星さまいっぱい。きらきらにしなきゃね』
『きらきらしてたら、とおくに行ってもさっちゃんはオレのことみえる?』
『ぜったいみえるよ。ほら、ナツ君のおかお、かけた!』
『うわ、すっごい上手。さっちゃんは、げーじゅつかになれそう』
お別れの時、手紙と一緒にこの絵を渡したことなんてすっかり忘れてたのに、ナツ君はちゃんとずっと持っててくれたんだ。幼くていい加減なあの日の私の言葉を忘れないで、ずっとキラキラでいようとしてくれてたんだ。
その絵を胸に押し当ててふうっと息を吐くと、窓を全開にして、外の空気を吸い込んだ。
ぎゅっと目をつぶっているのに絶え間なく落ちる涙が、春のまだ少し冷たい風に洗われる。
ばっちーんと両手で思い切りほっぺたを叩いた。
泣くのはもうこれでおわり。
ナツ君私ね、過去を懐かしむのはもうこれでおしまいにする。
あの日駅のホームでうなだれてたみっともない自分には、もう戻らない。
あの時は、自分の知らないところで密かに努力してキラキラな姿で目の前に現れたナツ君を妬んで僻んだだけだった。
だけど今はナツ君のいない毎日のなかで、できることを頑張ってみようって思ってる。
そしていつかまた再会できたとき、微笑みかけてもらえるような自分になってたい。
自分の部屋に戻ると、もらった全部の手紙と鍵付きノート。
デートの思い出が詰まったキーホルダー、それからこの絵を箱にしまって深呼吸をした。
ナツ君好きだよ。
今もまだ好きで仕方ないよ。
だからその後ろ姿を思い描くね。
ナツ君の背中がこれ以上離れていかないように、追いていかれないように、ゆっくり私らしく、前に進むよ。