極甘クールな芸能人幼なじみの意地悪な溺愛


エレベーターでうんと上の階までいって、広々としたフロアに着いた。
大きな窓からみえる景色もオフィスもきれいでかっこいいったらない。



でもここから上は、誰でも入れる場所じゃないらしいから提げていたパスをよく見えるように整えた。 
これをなくしたら追い出されちゃうから緊張感を持たないと。
そわそわしていたら、誰かが後ろからナツ君を呼び止めた。



「一佳久しぶり! なになに、可愛い子連れてんじゃん」  


秋都(あきと)かよ。なんでお前いんの?」



うんざりした声でだるそうに応えながら、ナツ君はすぐに私の腕を引っ張って、更に背中の後ろに隠してくれた。



このブルーグレーの髪色の男の子は、辻浦(つじうら)秋都(あきと)君。
ナツ君とシンメで語られがちな事務所イチオシのスーパーモデルさん。



彼は現役大学生で、キャンパスで偶然出会えるんじゃないか……そんな夢をみさせてくれる王子様タイプ。



手が届きそうで届かない、焦れったさを感じさせる罪なお兄さんなんだよ! って蘭ちゃんから習った。
背もナツ君と同じくらいだし、当然美形。芸能人って圧倒される。
 


年上の秋都君を前にして、おどおどしたことにナツ君は気付いてくれたのかな。
にこにこと、物珍しそうに私をみている彼を冗談ぽく牽制してくれた。



「秋都、ハウス」



「やだ。その子としゃべりたい。だって彼女って噂のあの子だよね、名前教えてよ」 



好奇心旺盛な子犬みたいに、目の前のナツ君を無視してこっちを覗き込んできた。
人気芸能人にわざわざ目線を合わせてもらって、会えたことにも感激はしてるけど、距離をいきなり詰められたらやっぱり緊張してしまう。



「……はじめまして。新人マネージャーの小松紗知っていいます」



おっきな背中から出てぺこっとお辞儀した。
ナツ君の印象が悪くなっちゃうから緊張を隠してもちろん笑顔。



「紗知ちゃんよろしく。俺のことは秋都って呼んでよ。ねぇ一佳っていつも忙しいでしょ」


「えっ、あぁそうですね。忙しいです」


「別に忙しくねーけど」 


なんかナツ君はとってもピリピリして不機嫌。


「よかったら俺が事務所案内してあげよっか」


秋都君は満面の笑顔で強引に私の腕を掴もうとしたけど、その手をナツ君が思いっきり掴みあげた。
 

「一佳ギブ! 痛い痛い!」


「気安く下の名前で呼んでんじゃねーよ。あと勝手に触んな。紗知から50メートル以上離れろ」


「ナツ君それは大袈裟すぎじゃ……」


「いいからそこの部屋で待ってて」



冷たい声で先に行くよう促されて近くのミーティングルームに入ったけど、ナツ君は秋都君の首をロックしたまま、ずんずんと事務所の奥へと進んで行ってしまった。



どうしていいかわからなかったからナツ君がいてくれてよかったけど、あんなふうに追い払うみたいなことをして大丈夫かな。



せっかく仲良くしてくれようとしてたのにちょっと申し訳なくて、二人の背中をドアの隙間からちらりと覗き見。



すぐにミーティングルームに戻ってきたナツ君は、あの後秋都君に意地悪を言われたのかと思うくらいにはイライラした顔をしてた。



「俺また出ていくけどこの部屋で待ってて、すぐ戻るからマジで誰とも話さないで。この辺、秋都みたいなのがうろうろしてるから。誰にも笑顔なんか見せなくていいから」


「大丈夫だって。お姉ちゃんもいるし大袈裟だよ」



他の用事を済ませていたお姉ちゃんもちょうど合流したところだった。
それに来客タグをぶら下げてる私たちにわざわざ話しかけたりする人なんているわけがない。



秋都君だって、ナツ君をみつけたから声をかけてきたんだもん。



「なんか今日のナツ君て過保護すぎないかな」


「当然じゃん。ここ虫だらけなんだから」 


「虫なんて公園でもみかけなかったよ? 冬だし」


明るく答えたら、不機嫌だった顔がふっと和らいだ。時々困り顔で笑うの、どきっとするんだよね。



「その無防備さにこっちは振り回されてんの」


頭をぽんぽん、よしよし。
ついでにほっぺたをふにふにされて一瞬で顔から湯気が出た。



「あのっ、空いた時間でイラストの続き描いとくからお仕事頑張って。いってらっしゃい」


お見送りしようとしたのになぜか今度はお姉ちゃんと口喧嘩が始まってるし。 
 


ちゃんと見てろとかこんな服着せるなとか。
対してお姉ちゃんは、束縛しすぎもどうかと思う……なんて謎の反撃。
お父さんとお母さんの会話みたいじゃない?



ナツ君が行ってしまったから、私たちはちょっと休憩タイムにすることにした。


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