私の推しはぬこ課長~恋は育成ゲームのようにうまくいきません!~
「山田なんかよりも、俺のほうが愛衣さんが好きな気持ちは上だ」

「好きや嫌いなんていう感情は、人と比べるものじゃないです」

「君のそういうところ。物怖じせずに、俺にハッキリとなんでも言ってくれることが嬉しい。ほかのヤツはなにも言わないから」

 寂しそうに言う、須藤課長の声にハッとする。だって、明らかに苛立ってる相手に歯向かう労力を考えたら、黙ってるほうが楽だろう。

「須藤課長がもう少し穏やかに話をしたら、ほかの人もいろいろ言いやすいと思いますけど」

「わかった。善処する」

 やけに素直に応じたことを不思議に思って、須藤課長の胸の中から顔をあげたら、食い入るように見つめる瞳とかち合った。

「帰したくない。もっと傍にいたい……」

 しまったと後悔する前に、唇が塞がれてしまった。今度は躊躇なく舌が挿入されると考え、歯を食いしばってガードする。それなのに――。

「ンンっ!」

 須藤課長の唇が一瞬だけ触れたのに、すかさず私の下唇をやんわりと食んで、ちゅっと吸うなんて予想外の行為をした。強弱をつけて舐るようにされていくうちに、妙に感じてしまって、体の力がどんどん抜けていく。

「あぁっ…んぅっ」

 ぎゅっと眉根を寄せながら須藤課長にしなだれかかった瞬間、深く唇が合わされる。力の緩みが口の中にもあったため、須藤課長の舌がすんなりと挿入し、私の舌に絡む。

(おかしい! すべてがはじめての須藤課長に、ここまで感じさせられるなんて、どういうこと!?)

 口内での攻防――須藤課長の舌から逃げたら、舌の裏側を左右に責められてしまい、ゾワゾワしたものが背筋を走った。

「んあっ、もっ…これ以じ、ょうダメ……」

 須藤課長の顔の角度が変わった瞬間を狙って、喘ぐ呼吸と一緒に気持ちを吐露する。肩で息をする私を須藤課長はしばし見下ろしてから、耳元に顔を寄せた。

「悪いが駄目なことを、具体的に言ってくれないと困る。愛衣さんの嫌がることをしたくない」

 私が言った傍から、耳朶を口に含んで食む。

「やっ! 今やってることを止めてください!」

「わかった」

 了承した囁きが耳の穴をふわりと掠めたせいで、体が大きくビクついた。須藤課長がすることに、いちいち反応してしまうのが恥ずかしくて、顔をあげられない。ずっと息が乱れっぱなしで、頬が火照ってしまった。

(須藤課長の両手がまだ動いていないというのに、こんなに感じてしまうなんて、きっと淫らな女って思ってるだろうな)

「愛衣さん、かわいい」

「は?」

「俺の拙いキスでこんなに赤くなって、すごくかわいい」

「須藤課長、本当にキスははじめてなんですか? 全然拙くなんてないですよ」

「感じてくれたのか?」

「あ、はぁまあ。息が乱れるくらいに、翻弄されました……」

「よし、じゃあ次!」
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