大好きな兄と私のふたり暮らし【優秀作品】
元カレ
 そんなこんなで始まった2人暮らし。

 特にどうということもなく、穏やかに日々は過ぎていく。

 そうして11月最初の日曜日。

私もお兄ちゃんも、何をするでもなくのんびり家で過ごしていると、玄関のチャイムが鳴った。

「ん? 誰だろう?」

インターホンのモニターを見た兄が首を傾げながら通話ボタンを押した。

「はい」

「あ、あの、白川(しらかわ)と申します。
 愛香(まなか)さんは… ?」

「げっ!」

インターホンから聞こえる声を聞いて、私は思わず声を上げてしまった。

「少々お待ちください」

兄は、通話をオフにして私に尋ねる。

「愛香、知り合い?」

「……元カレ」

「どうする?
 何か話があるのかもしれないし、
 自分で出るか?」

「……うん」

私は渋々、玄関に向かった。

 9月に別れて以来、彼から、ずっとやり直したいって電話やメールをもらってた。何度断っても諦めてくれないから、先週、着信拒否の設定をしたばかりだった。

 私は出してあったサンダルを引っ掛けてカチャっと鍵を開け、ドアをそっと30㎝くらい開ける。

「愛香ちゃん!」

すぐにも抱きつきそうな勢いで外からドアを開けようとするので、私は思わず、ドアノブを離して後ずさった。

白川さんは当然のように玄関の中に足を踏み入れる。

私は、慌ててサンダルを脱いで、上がり框に上がった。

「愛香ちゃん、会いたかった。
 お願いだよ。
 悪いところがあるなら、直すから。
 だから、もう一度チャンスをくれないか」

「ごめんなさい。
 こんな風に家に来られても困るの。
 私、言ったよね?
 もうあなたとは会わないって。
 申し訳ないけど、やっぱりお友達以上には
 思えないのよ」

「それは、これから付き合っていけば
 きっと…」

白川さんは、後ずさる私を捕まえようと、今にも靴を脱いで上がりそうな勢いで前のめりに訴える。

「無理です。
 お願いだから、帰ってください」

私はもう怒りを通り越して泣きたかった。
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