極上パイロットが愛妻にご所望です
「お疲れ。今から帰るんだろ?」

「う、うん。どうして……」

 桜宮さんのフライトは二十一時過ぎ。出社は夕方でいいのだから、まだ早いはず。

「会いたいからに決まってるだろ。大丈夫。誰もいない。行こう。送ってく」

 サラッと気持ちをさらけ出せるのは、十三歳から大学までアメリカで過ごしたせいなのか。

 彼は私の手を取ろうとした。

「ダ、ダメ。それでもダメっ。離れて歩いてください」

 こんなところで手を繋いで歩き、誰かに見られでもしたら噂になってしまう。
 
 今でも、誰か来やしないかと、落ち着かなくて心臓がドクドク暴れている。
 
 身を少し引いた私に、桜宮さんは肩をすくめてため息をつく。

「わかった。ついてきて」

 彼は向きを変えて、出口に向かって歩き始める。

 せっかく迎えに来てくれたのに、冷たい態度しかできなくて申し訳ないと思いながら、十メートルほど距離を置いて桜宮さんの後をついていった。
 


「砂羽、挙動不審人物になってたぞ」

 車を会社のパーキングから出庫させた朝陽は、込み上げる笑いを堪えている様子。

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