彼の考えていたことを知ることはできない
その日は十一月だというのに二十五度もある快晴だった。

僕は着慣れないスーツのジャケットを脱ぐか悩んで、結局誰一人脱いでないのを見てやめる。
汗がこめかみから頬を伝って首筋を流れていく。

顔をあげると、すまして笑っている奴の写真が目に入る。
いつもはクールな顔してるくせに何かあると顔をくしゃくしゃにして笑っていた彼が、いつの間にこんなすまして笑っている写真なんて撮ったのだろう。

そんなことを考えるくらい、まるで実感がわかなかった。

もう、涼太がこの世にいないなんて。


「裕行(ひろゆき)君、今日は来てくれてありがとう」

目を真っ赤にして駆け寄ってくる涼太の母親が痛々しくて、思わず目を伏せる。

「いえ、この度はご愁傷さまです……」

取って付けたような言い慣れない台詞を呟くと、涼太の母親は一瞬嗚咽をあげるもまた泣いたように笑って僕を見つめた。

「あの子も裕行君が来てくれて喜んでるわ。会ってあげて」

その声に圧されて、僕はゆっくりと棺に近付いて、そっと覗き込む。

雨の強い日に駅の階段を踏み外して当たりどころが悪くてとは聞いていたが、顔は傷付かなかったみたいだった。

こういう時にいかにも眠っているだけのような顔をしていると思うのかも知れないが、生気が微塵もなくて不謹慎ながら剥製みたいだなと思ってしまった。

涼太は、もうここにはいない。
そう理解するには十分だった。

「涼太が事故にあったの、裕行君のせいじゃないからね」

「え」と反射的に振り向くと、涼太の母親が僕を慰めるように微笑んだ。

「あの子が事故にあったのは裕行君と別れてからだから気にしないでね」

僕は何と返していいか分からなくて曖昧に笑った。
それを肯定と捉えたのか彼女は頷いて、また他の弔問客のところへ去っていった。
僕は、悲しみとは別のところに立ち尽くしていた。

涼太が事故にあった日、僕は彼と会っていないとは言えなかった。
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