ナナ

Hypocrite

パトカーの音。



賑わう繁華街。



静まり返る住宅街。



真っ暗な部屋。



バニラとベルガモットの香り。



カクテル。



月。



星空。



落ち着く空間。



相変わらずベビードール1枚の薄着。



ちょっと寒い気がしなくもないけどお酒を飲めば体温なんてすぐ上がる。



床には空になったお酒の缶がもう5本は転がっている。



色が入りようやく完成した般若の刺青が入った太ももを撫でる。



赤くギラつかせる片目。



睨みつける顔。



女の嫉妬を制する、なんて意味をこめていれたけど、それ以上に難しいことなんてあるのだろうか。



近くのテーブルにおいてあったタバコとライターを手に取る。



湊都のタバコを吸ってからすっかりお気に入りになった私は最近ずっと同じタバコを買っている。



タバコに火をつけて一服。



ふぅっと吐き出すとタバコの煙が空に舞い上がっていく。



そして少しもしないうちに消えてしまう。



きっと彼もそういう人なんだろう。



タバコの煙のようにふっと消えてしまうかもしれない。



タバコを灰皿に置き、残っていたお酒を一気飲みし床に投げ捨てる。



どれだけ悩んでも迷っても決められなくても結局いつも同じ。



答えなんて出ない。



自分の膝を抱え込み顔を埋める。



どうせ私は間違ってもいい人になんてなれないんだ。
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