華麗なる人生に暗雲はつきもの
「榊田君のご両親も私の妊娠を快く思っていない?」
はぐらかせないと水野の頭を撫でた。
「親父たちは俺に対して怒っているだけで、嫁に来てくれるだけでありがたいと思
っているぞ」
あの怒り具合から、婿入りの可能性も高いが、そんなのは問題でもない。
どんな条件でも水野と一緒になれれば何でも良い。
婿入りどころか、同居も想定済み。
溺愛する一人娘なのだから、それを望むならば叶えるべきだ。
「榊田君ばっかり辛い思いさせてごめんね」
「謝られる意味がわからない。俺は間違いなく最高に幸せだぞ」
水野に振られた瞬間の地獄と比べれば、水野の妊娠なんて諸手挙げて喜ぶ事象。
俺の嘘偽りのない言葉に水野はうん、と頷いた。
これからの争いに向けてマイナスイオン補給。
キスをして家を出た。
久しぶりに見るオンボロアパートに二人は佇んでいた。
その空気は淀んでいて再会を喜び合うなんて無理な話。
「今、開ける」
そう言って上った階段の音も、開けた部屋の空気も自分がかつて住んでいたのに廃墟にしか思えなかった。
しばらく誰も住んでいないかったことが淀み切った空気から伝わる。
少しでも和ませようと茶の用意をするのも無駄であることが明明白白。
「お前、どこに住んでる?この部屋はどう見ても住んでいるように思えない」
眉間の皺は年季が入っていて、その表情は俺の顔を険わしくさせる。