一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編
プルルルル・・・。

ぼんやりとエントランスを歩く萌音のスマホの着信音が鳴ったのはその時だった。

発信者は゛結子゛。

フランスにいるはずの萌音の母、印象派の流れを現代に受け継ぐと言われる天才画家、流川結子だった。

「もしもし?お母さん?どうしたの?フランスはまだ朝の4時でしょう?」

結子は朝が弱い。

こんな時間に電話なんて、何かあったに違いないと萌音は慌てていた。

フランスは遠い。

慌てたからといって何かできるわけではないが、うっかり者の母が萌音は心配なのだ。

「Ma douce fille...(愛しの娘よ)今、あなたの会社の前にいるのよ。一緒にランチを食べましょ?」

「はっ?」

「いた、いた!連絡もしてないのにエントランスで偶然会うなんて、運命としか言いようがないわね」

萌音が佐和山建設のエントランスを出て、キョロキョロと左右を見渡していると、つばの広い女優のような帽子を被り、サングラスをした場違いな結子が両手を広げて立っていた。
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