一級建築士の甘い囁き~ツインソウルはお前だけ~妊娠・出産編

ご懐妊

『ご結婚おめでとうございます』

先ほどそんなお祝いの言葉を、婚姻届を提出した役所のおじさんからもらった。

海音はあの後、矢野課長から時間年休をもぎ取り、萌音を連れて社外に出て、萌音には有無を言わせず婚姻届を提出した。

「おめでとうございます。妊娠13週、4ヶ月ですよ」

そして今度は、産婦人科の診察台の上で、二人して妊娠のお祝いの言葉を聞いている。

「ありがとうございます」

元気よく答えるのは、もちろん、つい先程萌音の夫となった海音。

嫌がる萌音を説き伏せて、海音は萌音の診察(内診)に付き添った。

もちろん座るのはドクター側ではなく、患者側にだが。

「ほら、元気よく心臓が動いていますね。姿形もはっきりわかりますね」

つわりが全くなかった萌音だったが、そういえば少し太ったような、胸が大きくなったような気はしていた。

だがそれは、心身ともに海音に甘やかされているせいだと思っていた。

下腹部がポッテリしてきたのだって、運動不足で太ったせいだと思っていた。

どれだけ鈍感なんだ、と萌音は自分を笑った。

もしかして、乳輪が大きくなって少し色が濃くなったのもホルモンのせいなのか・・・?

萌音の頭の中はぐるぐると別の思考に支配され、目の前の超音波画像に集中できずにいた。

「それにしても、つわりがなくて良かったですね。一般的には4ヶ月くらいからつわりがおさまってくると言われてるんですよ、得しましたね。でも、油断は禁物です。これからつわりが来ないとも限らないし。食べづわりの人もいますからね。体重増加と塩分の摂りすぎには注意ですよ」

つわりがないことを、まるで福引きでたまたま゛一等を引き当ててラッキーだったわねー゛と冷やかす近所のおばちゃんのような女医に感心しつつ、萌音はありがたい話を聞いていた。

大事なポイントのメモを取るのは海音の役目らしい。

彼は一語一句漏らさぬ勢いでメモをしていた。

萌音もドン引きである。

自覚がないだけに、萌音には妊娠がどうしても自分に起こっていることとは受けとめきれずにいた。

「それでは妊娠証明書を出しますから、次の検診は一ヶ月後で」

あっさりとした女医さんはそう告げると、次の患者の診察へ行ってしまった。
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