かわいくて甘い後輩がグイグイ来る
「んん!?ちょっと花野井くん……!?」

 花野井くんは、私がかなり戸惑っているのにも素知らぬ顔で。

「ほ〜ら。油断してるからこうなるんですよ」

「なっ……」

 いや、待ってください。今私何されたの?
 これっていわゆる……その……キ……?

「キス、ですよ」

 まるで私の頭の中を読んだかのように花野井くんが真顔で言う。
 そんな平然としていられるものなのかしら……?

「そ、そうね……?」

 訳もわからず、返事をしてみる。

「で……?先輩、そろそろ帰りましょ。もう遅いですよ」

「そ、そうね……?」

 ん?私まだ頭が追いついていないのだけれど。

「次の地下鉄に乗ればいいですね。とりあえず家まで送りますから」

「そ、そうね……?」

 あまりに花野井くんが淡々と話すから、私はさっき起きた出来事が夢なんじゃないかと――

「言っておくけど、夢じゃないですからね」

 ま、また!私の頭の中を読んだかのように!

 私はもう、「そ、そうね……?」しか言えなくなっていた。
 花野井くん、キャラ違くない?
 なんて言うのには少し勇気がいる。

「ほら、乗りますよ」

 ほんの数分前とはキャラがかなり違う花野井くんに手を引かれるままに、私は改札を抜け、地下鉄に乗る。
 先程とは違い、地下鉄内はがらりとしていた。

「……」

 地下鉄に揺られながら、私達は言葉を発さなかった。私に至っては、さっき起こった出来事について頭が追いついていない。花野井くんは――何を考えていたのか、わからない。

―――――――――
「あ、ありがとうね花野井くん。送ってくれて」

 私は、結局花野井くんに家まで送ってもらった。

「いえ」

「じゃ、じゃあ……」

 私は、花野井くんに背を向けて家の塀を越えようとした。

「待ってください、先輩」

「……はい」

「とぼけている先輩のことだからさっきのことに頭が追いつくのは多分、数時間後になると思います」

 失礼ね。

「怒りっぽい先輩のことだから、俺に対して怒りを覚えて腕を振り回すかもしれません」

 失礼ね。

「でも、もう一度言っておきます。

 俺、男です。身長は数センチしか変わらないかもしれないけど、それでも先輩より高いんです」

 うん。

「あと夢じゃないですからね」

 ……はい。

「じゃ」

 家の敷地内に入る前にある段差の上に私は乗っているので、今は花野井くんより背が高い状態だ。
 花野井くんは背伸びをして、その私の額に口づけた。

「……え」

 私としては、さっきのこともまだよくわかっていないのにこんなことされて、間の抜けた声が出るだけだった。

「また明日ね」

 花野井くんはいたずらっぽい笑みを浮かべて、家に帰るべく歩いていった。

 ……え。

 ただ、私の目の前には星空が広がっていた。

 私は今どんな表情をしていただろうか。多分、世界一間の抜けた顔なんだろうな。
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