人魚の涙〜マーメイド・ティア〜


2人して呆然と立ち尽くしていても仕方ないので少しずつ近寄ってみる


波瑠も逃げずにそこに俯いてるように立ち続けていた


近づけば近づくほどやっぱりそれは波瑠で



「波瑠…」



声をかけてみたけど反応はなくて聞いてるか聞いてないかわかんないけど謝らなきゃ



「「ごめん!!」」


「あれ」
「え」



あたしたちは同時に頭を下げて謝りあっていた


顔を上げると少し恥ずかしそうに眉を潜めている波瑠と目が合う



「その、俺ひどいことしちゃったよな、ごめん」



そう言って波瑠は持っていたビニールをずいっと差し出してくる



「これ…」



受け取って中身をみるとそこには喧嘩の原因となったプリンが入っていた、ちゃっかり2個になってるけど



「あたしの方こそごめん、きつく言い過ぎた」



あたしが謝ると波瑠のクリクリした目が見開かれる
でも次の瞬間その顔を盛大に歪めて今にも泣きだしそうな小さな男の子みたいだった



「ッあんたは悪くないんだよ、俺がいけないんだ!」



どうしてそんなに自分を責めるのだろう?


あたしの心に何かが引っかかる



ー…まるで何かと戦ってるみたい



波瑠を見ててあたしの中に引っかかった何かは多分、ちゃんとあたしを見てくれてないからだ


波瑠には、あたしが誰かに重なって見えるのかもしれない



でも今のあたしにはそれを深く聞くつもりはない。
昨日今日だけ関わった人に話すなんて波瑠はきっと嫌だろうから。


こんなに苦しんでるのに聞いてしまったら波瑠が壊れてしまうような気もする


だから、せめても今あたしができることをしてあげたいと思った。


エゴかもしれないけどそれでも残りの1週間ちょっとあたしがいても波瑠の心の何かとあたしが被っても苦しまない様にするためにも。



「ねぇ、波瑠…あたしはあたしだよ。他の誰でもない、春山千晃でしかない」



何言ってんだ、こいつ。みたいな言葉しか伝えられなかったけど、あたしと重ねてる誰かを引き離すにはこんな言葉しか思いつかなかった。


あたしにもっと人を助けられる様な力があればいいのになんて無力なんだろう。


何分沈黙が続いたか分からないけど波瑠もあたしも何も喋らなかった



額にうっすら汗がにじむ。



ずっと立ちっぱなしっていうわけにもいかないのであたしから声をかけてみる



「…戻らない?」



あたしは倉庫がある方を指差し波瑠を伺う



「…そうだな」



波瑠はゆっくりと顔を上げて返事を返してくれた。


それを聞いてホッとした
ちゃんとあたしの声は届いてた


安心して来た道を戻ろうと歩き始めたら手が空気の熱とは別の温かい何かに掴まれた


びっくりして手元を見ると



「少しだけこうさせて。あんたを…千晃を千晃だって思うために」



波瑠が自分から手を繋ぎに来て、同じくらいの目線がぶつかった


あぁ、今度はちゃんとあたしを見てくれてる
それがたまらなく嬉しくて、嬉しくて。



「うん!」



暑くて手汗もかく時期なのにしっかりと波瑠の手を握って、一緒の歩幅で倉庫に続く道を歩いた



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