人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



「待ってよ!波瑠!」



咄嗟に波瑠を追いかけたのはいいものの、波瑠は外に飛び出していつの間にか土砂降りになっていた雨の中を走る
今のあたしにはその後ろ姿を見失わないようにするので精一杯だ。


おまけに雨のせいであたしの声も届いてない。


お願いだから止まってよ、波瑠…!


波瑠がひたすら走って行く方向を見ると嫌な予感しかしない。



「波瑠!!お願いだから止まって!!波瑠!!!」



これ以上進まないでお願いだから!その先は




海しかないの!!




お願いだから声でも届いて!


「波瑠!!」


そんなあたしの呼びかけも虚しく波瑠は思いっきり海に突っ込んで行く



ー…ザブンッ!!



どうして…?
お願いだからあたしの前からもう誰もいなくならないで!!!!


ようやく追いついたあたしは波瑠に手を伸ばし肩を掴んだ



「波瑠!!!いい加減にして!!お願いだから!」



そしてそのまま強く、ただただ強く


抱きしめた。


…もう目の前で大切な人がいなくなるのは嫌だ。



「…ど、して…ち、あき…追いかけて、きたの?」



あたしが聞きたい。
どうしてそんなこと聞くの?


苛立って波瑠を無理やりこっち向かせて目を逸らさないようにガッと顔を包む。



「波瑠が大事だからに決まってんじゃん!!お願いだから1人で抱え込んで、消えようとしないで!!…お願いだから」


「…どうして、千晃が泣くの?」



そんなの決まってる。



「波瑠が、苦しそうにしてるから。助けてって波瑠の心が泣き叫んでるから。」



その痛みがあたしにも伝わってくるくらい今の波瑠はひどい顔をしている


もう、黙って見ていられないよ…、みんなごめん。あたしは波瑠の中に踏み込む。



「波瑠…何があったの?」



あたしの問いかけにさらに表情を歪める波瑠はその綺麗なオッドアイからポロポロと雫を落とし始める



「話しても、千晃は俺のそばに、いてくれる…?」



震えながらあたしの手を掴む



「…もちろん。聞いても波瑠が今の波瑠ならあたしは一緒にいたいと思う。」



その言葉を聞いて心を決めたのか少し瞳に力が宿って、ポツリポツリと話し始めた。


その口から溢れでてきたのは、波瑠の過去の話だった



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