人魚の涙〜マーメイド・ティア〜



ご飯を食べ終わって酒盛りが始まり、設置してあったカラオケで歌いまくっていた


あたしも無理やり歌わされたんだけど、家にテレビもないし、現代の子たちが聞くような音楽は何一つ知らないので昔散々歌った童謡を歌った


そしたら一瞬みんな固まったけど


「スゲェー!ちぃさん!うめぇ!」


「歌のオネェさんみたい!」


「この曲も歌ってほしい!」



一端の不良たちからどんどんリクエストされてなぜか歌ってた


てか、みんなが意外と童謡を知ってたほうがあたしはびっくりだよ



「ぶっ、千晃ちゃん最高っ…ぶはっ」



そしてなぜか私が歌うたびに敦先輩は大爆笑してるし…


必死に声抑えても肩めっちゃ揺れてますからね?


そんな敦先輩は一曲も歌わなかった


でも1番意外だったのは…



「やっぱり、蓮さんうめぇ!!」


「絶対プロになれますよ!」


「蓮さんのしーでぃーあったら俺買うわ!」



そう、なんかやたらと蓮がうまい


多分この声で愛してます系の歌、愛してます系ってなんなのかよくわかんないけど好きな女の子の前で歌ったらイチコロだと思う


そんなみんなが盛り上げる歌を歌ってる中、スススッとあたしの隣に誰が来たのを横目で見ると



「千晃、昨日はごめんね。」



俯いて目を合わせない波瑠がいた


思わず頭を撫でたくなった。


だから、少しの加減もせずに撫で回した


「わぁ!ち、千晃?」


びっくりして固まる波瑠をみて微笑ましく思う。


「どういたしまして。」


波瑠は別になにも悪いことはしてない。


確かに死のうとしたのは許せない。
命は限りあるもので自分で終わらせるなんて勿体無いことをしたのはよくないけど。


それを素直に反省して謝るその強さをあたしは信じたいと思うし、きっともうあんな馬鹿なことはしないだろうと思う。


それがなによりもあたしは嬉しい。


しばらく見つめ合っていると元々潤んでいた波瑠の瞳から大きな雫が落ちた



「なに泣かしてんだよ。」



そんな波瑠の目元を隠してギロリと睨んできたやつを見るけどその目に覇気はなかった



「蓮が泣かしたんじゃなくて?」



べぇーと舌を出してあかんべをしてみせる



「はっ、ぶっさいく」



相変わらずムカつく。


言い返してやろうと思って口を開きかけたその時、思いきり飛びつかれて咄嗟に後ろに手をつく



「千晃はブサイクなんかじゃない!かっこよくて可愛くて優しいんだよ!ブサイクなのは蓮!!」


「んだと?このチビ!!表に出ろ!」


「やんのか!このデカブツ!」



さっきまでしおらしかった波瑠はどこへいったのか言い合いをして蓮とじゃれ合ってる


あぁ、いつも通りの日常が戻ってきた。


そのことがたまらなく幸せに感じた


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