氷河くんのポーカーフェイスを崩したい。
 先生を振り返ると、ノートパソコンでなにか作業をしていた。

 養護教諭というのは生徒の応急手当といった専門的な仕事以外にデスクワークも多い。

 それは、小学生の頃、保健室に人より長く滞在させてもらう中で子供ながらに感じていたことの一つだった。

「先生は生徒の秘密は守ってくれるよね?」
「立場上、守秘義務というものはあります」

 なら、言わないでくれるよね?

「……たしか」

 気まずそうに、沙里がつぶやく。

「アイスホッケー部の顧問って」

 ん?

「私です」

 ――――!?

「え……」

 先生が?

 えぇ!?

「改めまして。アイスホッケー部、顧問の藤生(ふじお)です」

 ――フジくん

「ひょっとして。マネージャー志望なのですか?」

 死んだ。

「は、はい!」
「ははは。入部前から、うちの選手を食いものにするとは」
「いや……」
「それとも。手を出したのは、部員の方ですかね?」

 穏やかな口調ながらに、めちゃくちゃ怖い。
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