闇色のシンデレラ

闇に染まる

総会終了後、志勇と望月は血判を押し、誓約書にサインした。


その頃には夜に差し掛かっていたけど、西雲会御一行はその日の内に帰るらしく身支度を始めた。




「そうや、壱華。お前に渡す物があった」



招集された荒瀬組の直参も帰って屋敷が静まったころ、望月は思いついたように呟いた。


そして部屋の外に待機していた護衛に話しかけると、持ってきたのは、風呂敷に包まれた長方形の桐の箱。



「壱華、受け取るな」

「まって、中身を確かめさせて」

「他の男から物をもらうなって言ってんだ」

「志勇、中を確かめさせて?」

「……」



駄々をこねる志勇に冷ややかな笑みを張り付けてお願いすると、渋々口を閉じた。


望月はそれを見て苦笑いしながら箱を地面に置く。


わたしは風呂敷を解き、そっと箱を開けた。



「あ……」



箱の形状からある程度予想していたけど、本物を見ると驚いた。


鮮やかな朱色と、おごそかな金糸の刺繍。



「幹奈が着てた着物や。もらってくれんか」



写真に写る母が着ていた赤い振袖だ。



「……綺麗。大事にします」

「ええよ、元々会えたら渡そうと思うてたし」

「本当に……ありがとうございました」

「よさんかい、照れるやん」



思えばわたしもこの男に助けられたのだと、改めて深々と礼をした。



「チッ、おいそれ以上話すな」



ところがこの短い会話でも帝王は我慢できなかった様子で。


腕を引っ張られ胸の中に引きずり込まれた。



「はは、ええなぁ。そいじゃあ末永くお幸せに。
あ、祝言には呼んでな!」



そんなわたしたちに望月は一番いい笑顔で別れを告げ、一度も振り返ることなく、颯爽と去っていった。




「……あいつ、嫌いだ」

「ふふっ、なかなかいいコンビだと思ったけどね?」
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