闇色のシンデレラ

お嬢

5月中旬、リビングの大きな窓から望める空の五月晴れが見事なこの頃。


わたしは8月の高卒認定試験に向けて、志勇の隣で勉強に専念していた。


ヒマそうな志勇は頭を撫でてみたり、わたしの髪をくるくるして遊んだり。


ところで、よく髪を触る志勇だけど、どんな髪型が好きなんだろう。



「志勇」

「ん、勉強終わりか。
天気がいいから、やっぱり今日は俺とデートしたいってか?」

「いや、違うし全然そんなこと思ってないけど……志勇ってロングとショート、どっちの髪型が好き?」

「お前が好き」



……ん?



「えっと……ロングヘアとショートヘアならどっちが好き?」

「だから、お前が好き」



出た、キャッチボールしてくれない志勇。



「お前がする髪型なら何でも好き、って意味だ」



ああ、なるほど。……え?


嬉しいけど、ドキッとしたけれど、それ、一番困る返答だわ。



「で、髪切りに美容院でも行きたいのか」



……美容院か。


思い出せばおばさんは『あんたなんかに金かけられない』って連れて行ってくれなかったし、お金もないから自分で切ってた。


別に髪くらい切らなくてもどうってことないけど、綺麗になりたいって願望はあったから、自分の好きなようにオシャレができる美花と実莉が羨ましかった。


だからもう我慢しなくていいって言うなら。



「……行きたい」

「分かった。知り合いに美容師がいるから連れてってやる。ちょうど明日、その辺で野暮用があるしな」

「ほんと?」

「その代わり、今からデートが条件な」

「え?うん、いいよ。ありがとう」



やっぱり志勇のことだから条件つけてきたけど、お願いを聞いてくれるところ、優しいと思う。


とにかく、明日が楽しみになってきた。
< 93 / 409 >

この作品をシェア

pagetop