独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする
返す言葉が見つからずに黙り込んでいると、彼女がフッと小さく笑った。
「きっと樹は、あなたのそういう純粋なところに惹かれたのね」
「えっ?」
先ほどとは違う優しい口調に驚き、まばたきを繰り返して彼女を見つめた。
「私、結婚しないで悠太をひとりで生んだの。だから樹のご両親に挨拶に行ったり、エンゲージリングをふたりで選んだり、きちんと手順を踏んで樹と結婚準備を進めてるあなたがうらやましかったのよね」
突然、本音を語り出した彼女に戸惑いつつも、黙ったまま話に耳を傾けた。
「樹と再会したら、別れなければよかったっていう思いが強くなって……。でも昨日、樹に俺たちの邪魔をしても無駄だってハッキリ言われて目が覚めたわ。今まで嫌な思いをさせてしまって、ごめんなさいね」
悠太君の病気が発覚して不安なときに医師であり、元カレでもある樹さんと再会したら、頼りたくなってしまうのも仕方ないことだったのかもしれない。
「……いいえ」
綾香さんに対するわだかまりがスッと消えていくのを実感した。
「華さん。樹と幸せになってね」
「ありがとうございます」
彼女の口から初めて出たお祝いの言葉をうれしく思いながら、頭を下げた。