独占本能が目覚めた外科医はウブな彼女を新妻にする

「はい、華もどうぞ。気をつけて帰るんだよ」

「はい」

手のひらにキャンディーがポトンと落ちた。

息抜きのために、ふらりと姿を見せた樹先生と久しぶりに会えたのはうれしい。でも、たいした話もできないまま、もう別れなければならないなんて寂しすぎる。

病院に戻っていく樹先生の後ろ姿を、しんみりしながら見つめた。

「ねえ、もしかして桐島先生と付き合ってるの?」

「えっ?」

西野さんに詰め寄られる。

「桐島先生に呼び捨てにされてたじゃない」

鋭い指摘を聞き、センチメンタルな気分が一瞬で吹き飛んだ。

今年の四月にくるみ薬局に入社した私を、親切に指導してくれたのは西野さんだ。彼女には感謝してるし、なにか困りごとがあるなら力になりたいとも思う。

けれど樹先生のことだけは譲れない。彼に馴れ馴れしくしないでほしいし、迫るのもやめてほしい。

「実は……」

「ちょっと待って。外じゃ暑いからどこかお店に入らない?」

事実を包み隠さず話そうすると、言葉を遮られてしまった。

日は沈みかけていても蒸し暑さは変わらず、じっとしているだけなのに額に汗が滲み出す。

ひんやりとしたエアコンの冷気が恋しくなり、すぐに「はい」と返事をした。

< 48 / 214 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop